孤独と連帯(2)『あんぱるぬゆんた』(1996)銀河社
代田昇:作、宮良貴子:絵
「どんなに ねんぐを とられても わしらは けっして もうにげない
はさみを みがいて ちからを つけて ゆぃさ! ずくずく しそんを ふやして いくさ」
テーマ「孤独と連帯」の第2回目は、八重山のカニたちの宴会のおはなし。本当は第3回目に取り上げる予定でしたが、このカニたちが大変なことに!……後述しますが、そんな理由で繰り上げです。
連帯って、なんだか素直には信じられない言葉ですね。SNSでつながっていても、会ったこともない人がたくさん。「いいね!」がいくつもらえるかしら、なんて考えながら、炎上しないように言葉を選んだりして……でも、非力な私たちが何かを成し遂げるには、つながり合うことが欠かせないはず。できれば無理やり命じられて同質の集団の歯車のひとつになるよりも、それぞれ勝手なことを言いながら、それぞれに異なる力を発揮して、補い合っていければいいのですが。
この絵本の舞台は沖縄県の石垣島。「あんぱるぬゆんた」の元ネタは八重山の農民の労働歌(読み歌=ユンタ)です。あんぱるは名蔵湾に面した湿地の地名で、「網張」と書くそうです。先島諸島の農民たちには、薩摩藩への納税のため、琉球王朝から人頭税(子どもも含めた家族の人数に応じて定められた重税)が課されていました。それに耐えかねて逃げ出す農民を捕らえるために網を張っていたのが地名の由来だとか。絵本の冒頭には、そんな歴史が解説されています。
労働歌は、大人数で力仕事をするときに、作業のタイミングを揃える掛け声のような効果があります。へこたれそうな気持ちを鼓舞する意味もあるでしょう。「あんぱるぬゆんた」では、ミダガーマ(ツノメガニ)のマレドシイワイ(生まれ年祝=数え年13歳のお祝い)を、たくさんのカニたちがごちそう作りや踊りの仕事を分担して盛り上げます。その数なんと15種類。すべてのカニを呼び分けた八重山での名前があり、干潟の生きものを親しく見つめていた島の人たちの文化が伺えます。
「ぶたいづくりは おきなわあなじゃこ しまいちばんの ちからもち」
「しゃみせんひきは しおまねき てんとんてんとん はーはいへー」
原曲ではどうなっているかというと、
「だーなかんや 桟敷(さんちき)人数(にんじゅ)」
「むみんぴきかんや 三味線(さんしん)人数(にんじゅ)」
というように、カニの名前と役割がリズミカルに羅列されていきます。「職人尽」のような楽しさがありますね。絵本では、八重山出身の絵描きさんがそれぞれの特徴をとらえたカニのたちのにぎやかな宴会を鮮やかな色で描いています。博物画のようなタッチで全15種のカニが図解されている見返しもうれしい。原曲を歌いながらページを繰るとさらに楽しいのではないでしょうか。楽譜も収載されているので、読み聞かせでイイトコを見せたい大人は、挑戦してみてはいかがでしょう。
さて、日本最南端のラムサール条約湿地としても知られるこの物語の舞台、名蔵アンパルの上流に、大規模なゴルフリゾート建設が計画されているのをご存知でしょうか。カニたちの暮らす湿地への悪影響を懸念する人たちが、沖縄県知事や環境省に強引な計画の見直しや情報開示を要請しています。署名の第3次集約が期間延長中で、来たる石垣市長選でも争点となっています。今後の動向にぜひご注目ください。
WWFジャパン「日本最南端のラムサール条約湿地『名蔵アンパル』をまもろう」
『あんぱるぬゆんた』復刻版の入手先と署名のリンクがあります。
八重山日報「ゴルフ場 主要争点に浮上 砥板氏 慎重、中山氏 推進 石垣市長選」