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トップページ コラム 新連載「NGOの文章術」第10回

残りのエトセトラ
一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト代表理事 星川 淳
(連載開始にあたっての前置きは第1回をどうぞ

いよいよ最終回……ですが、主に技術面で雑多な積み残し事項が多すぎ、第8回に続いて箇条書きで駆け抜ける、体裁の悪い終わり方になりました。これまで9回の内容(たとえば「つねに読み手の理解を助けることを意識する」)を頭に置きながら読んでいただくと、くどくど説明しなくても納得できるのではないかと思います。おまけに文末には、いまのところだれに聞いても答えの得られない、筆者なりの疑問点も!

配慮と独自性のバランス

  1. 表記の統一

初歩的なことですが、用字や漢字の開き方など表記の著しい不統一は、書き手の不注意を露呈し、そのまま公表されれば団体・組織のリテラシーを疑われます。同様に、「YouTube」のように独特の表記がロゴ的な性格を帯びているものは、特殊な表記を尊重することがリテラシーの一端だと思います。

  1. 一般的でない略称などには説明を

普通の人には耳慣れない略称や頭文字は、直後の丸カッコ内に簡潔な説明を補いましょう(SNSやウェブ記事では、よほど長い記述でない限りその場で説明したほうが文末注より親切)。たとえば、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change=気候変動に関する政府間パネル)やPTSD(Post-Traumatic Stress Disorder=心的外傷後ストレス障害)などは、NGO関係者なら定着したと感じていても、一般には補足説明があると助かる場合が多いもの。なお、丸カッコの補足説明が文末に来るときは、句点の前で閉じます(句点の後ろに置くと次の文にかかるように読まれやすい)。

  1. 広まっても誤記は誤記

世の中に広まりすぎて訂正を諦めたくなるほどの漢字誤記に、「(~にも)関わらず」があります。正しい用字は「拘わらず」であるにもかかわらず、そう書いてもすでに読める人が限られていそうなので、筆者は通常ひらがなに開きます(「組織の運営に関わる」などの「関わる」とは別物)。同じく、「誠に」も「真に」が正しいのですが、これも「まことに」と開いたほうが無難でしょう(漢字の開き方については連載第4回にも解説あり)。

  1. 判断の分かれる送り仮名

文化庁が決め、一般社会に普及した送り仮名でも、明確な理由があれば独自の方針を持って構いません。一例として、「行(おこな)う」が正しいとされますが、「行って」の場合、「いって」なのか「おこなって」なのか見分けがつかないのが気持ち悪く、筆者は「行なう」「行なって」とします(こうした判断は文化庁も許容)。ちなみに、動詞に関する基本ルールでは、活用上「~ない」と否定形にしたとき変わる部分から送ることとされています(それに従えば「行わない」は間違いではない)。

引用の作法2題

  1. 引用カギの中には1センテンスだけ

文中に書籍や発言からの引用を入れる場合、一つの引用カギ(「 」)の中に句点をはさんで複数のセンテンスを続けることはできません。どうしても続けたければ、いったん引用カギを閉じて、そのあとに「と述べ、さらに」などのつなぎ語句を挟んで新しい引用を始めるといった処理が考えられます(下記文例参照)。ただし文末の引用カギなら、その前に地の文を「次のように指摘した。」などと結んだ上で、引用カギの中に句点を含む複数センテンスを並べることは可能です。

【×】洋子は「私、もうダメ。我慢の針が降り切れそう。」と体を硬くした。
【○】洋子は「私、もうダメ」と体を硬くしながら、「我慢の針が降り切れそう」と吐き捨てた。
【○】洋子は体を硬くして、こう吐き捨てた。「私、もうダメ。我慢の針が降り切れそう。」

なお、長めの引用の場合、前後に行アキを入れ、引用を独立した段落として表示する方法もあります。その際は、2字以上のインデント(行頭を一律に下げる)をするのが通例です。

  1. 主従関係に注意

文字どおり著作権法上の「作法」として、自分以外の著者・筆者による公開文書(書籍を含む)からの引用は、分量的な主従関係(地の文が主、引用が従)を逸脱しない適度な長さにとどめることがマナーであり、断りなく長すぎる引用を行なうと違法性を問われかねません。同じことは新聞・雑誌の記事にも該当し(紙媒体とオンラインとを問わず)、記事を紹介する場合でも、まったく原文そのまま長々と流用することは避けたいもの(引用については連載第2回にも解説あり)。

数字の扱いなど

  1. ナンバリング

箇条書きとして半角の算用(アラビア)数字と半角ピリオドで番号を振る際は、現行の英語書法に従ってピリオドのあとは半角スペースを空けます。同じく半角コロン、セミコロンのあとも半角スペースを入れます。ただし、日本語の文中で例外的に全角のコロンやセミコロンを使う場合、そのあとに半角スペースは不要でしょう(筆者の感覚では間延びしすぎる)。

  1. 異なる表記法の混在を避ける

「2億1,600万人」のような表記を見かけますが、これは日本語独特の4桁区切りと算用数字表記本来の3桁区切りが混在していて、「2億1600万人」とすることを勧めます。算用数字表記とカンマの位置がズレている前者は、混乱の元になりかねません。この連載は、NGOが常用する横書きの文書や記事(ウェブを含む)を前提としているため、漢数字は「一貫して」「一人ずつ」など言葉の一部を構成する場合に限り、純粋な数のカウントには算用数字を使う想定です。算用数字と漢数字の使い分けについては、団体の規則集(ハウスルール)に定めておくのが良いでしょう。

  1. 半角か全角か

筆者は、横書きの文章で「100%」などの英数表記は半角に、丸カッコを含むカッコ・カギ類は全角に統一しています。丸カッコを半角にする例も多く目にしますが(学術系ではそのように教えられているのかも)、全角の文中だと窮屈に見えます。以上は人により組織により判断が異なるでしょうから、参考までに。

その他あれこれ

  1. 並列の罠

だれでも文章を書くとき、教わらなくても「並列」という手法を使うことがあります。下記の文例でおわかりのとおり(簡略化のため食物という恵みを省略)、主語の「森」と述語の「与えてくれます」のあいだに、3種類の「だれに」と「何を」を並列させているわけです。しかし、【×】の文例はちょっと変ではありませんか? 「だれに」と「何を」を並べるうちに、「植物」のところで文法的なつながりが乱れてしまったのです。実際の並列文はもっと長くて複雑な場合が多いため、どの要素も文法的な主語・述語の関係性にうまくおさまることを確認してください。また並列に関しては、文法的な整合性だけでなく、文のリズム(テンポ)も留意したい点です。

【○】森は、動物にはねぐらを、植物にはそれぞれにふさわしい生育の場所を、そして人間にも様々な暮らしの素材を与えてくれます。
【×】森は、動物にはねぐらを、植物にはそれぞれにふさわしい生育の場があり、そして人間にも様々な暮らしの素材を与えてくれます。

  1. 段落の分け方

たいてい複数のセンテンスからなる「段落」について、どうまとめ、他の段落とどう区切ればいいのか、よくわからないという人もいるでしょう。これはかなり大きなテーマなので、深入りせずに大枠だけ説明すると、意味(あるいは主題)のまとまりで区切るのが「意味段落」、それが長すぎるなどの理由から意味段落をもっと細かく分けるのを「形式段落」と呼びます。

昔の本は、意味段落が切れ目なく何ページも続いたりしたものですが、だんだん読み手がヘタレになったせいか、意味段落をたくさんの形式段落に分け、さらに形式段落と形式段落のあいだにまで行アキをはさむといった“希薄化”が進んできました(かつて行アキはもっぱら意味段落の区切りを示すものだった時代も)。この連載がなんとなく想定する横書きのウェブテキストだと、意味段落ごとに小見出しを入れ、形式段落の区切りには行アキをはさむのが現在の基本スタイルと考えてください。新書などの編集方針にも似たようなトレンドが見られます(段落については連載第2回にも解説あり)。

  1. タイトル・サブタイトルのつけ方

NGOの文書や記事のタイトルは、無味乾燥なものが少なくありません。部内にコピーライター的な才能の持ち主がいると救われますが、そんな人材に恵まれなくても、1)長すぎず、2)アイキャッチになる内容で、3)タイトルを読むだけで一番伝えたい要点がわかる――という3点を念頭に工夫すれば、より多くの人に届くはずです。

  1.  ユーザー辞書の活用

適所に使うと効果的な2字分ダッシュ(――)や三点リーダー(基本的に同じく2字分続けて……)は、パソコンやスマホの変換機能でも探せますが、2字分をセットでユーザー辞書登録しておくと便利です。一方、タイトルなどに1字分のダッシュ(一)を使うのは、音引きなのかハイフンなのか紛らわしく、お勧めしません。また、とくに明朝体や教科書体の漢数字「」をダッシュの代用にするのはやめましょう。他人ごとでも恥ずかしすぎて、先を読む気が失せます。

宿題

  1. 「ている」問題?

さて、長い最終回の結びに、筆者のこだわりが強いのに、それを文法的に何と説明するのかわからない疑問を投げかけます。連載第6回で取り上げた呼吸やリズムとも関係しそうな、自称「ている」問題です。下記の例文1は、ChatGPTに生成させたという文章をもとに、筆者が「ている」問題の典型的症状をわざと強調してみたもの。それに対し、例文2は筆者が校閲役ならこう手直しするというサンプルです。例文1のような症状は、驚くほど日常的に見かけます。

この症状は、1)「~ている」という構文を乱発し、2)「て」音が不必要に重複して、文のリズムがもたつくのが特徴です。また別件ですが、「~ていく」を多用したがるクセの持ち主も少なくありません。筆者は「日本語として美しくない」としか表現できないので、文法的に分析可能な人は、ぜひ教えてください。

付記

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第9回「第四権とアート」はこちらから