商品カタログにネオニコフリー(「ネオニコチノイド系農薬を使わない」の意)マークを表示し、ネオニコを使わないお米、野菜、果物の生産・販売に取り組むコープ自然派事業連合は昨年11月、ネオニコチノイド研究の第一人者・平久美子医師を講師に迎え、オンライン講演会を開催しました。
講演の概要が同団体のwebメディア「Table(タブル)」に掲載されましたので、一部を転載いたします。
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◆生態系・人体への影響
1990年代前半に登場したネオニコチノイド系殺虫剤(以下ネオニコ)は、成分が農作物全体に行きわたる浸透性と、作用が長期間持続する残効性が特徴で、多少分解されても効力は持続。りんごに葉面散布した場合、20%が葉から根や実の芯まで浸透し洗ってもとれません。また、80%が大気中に拡散し、土壌や表層水、地下水など環境を汚染します。さらに、神経毒性があり、ニコチン性アセチルコリン受容体に作用して神経伝達物質の働きを乱し、神経の健全な発達を阻害。「”殺虫剤界の最終兵器“として使えば使うほど環境を汚染し、生きものの生存を脅かし、生態系を破滅に追いやります」と平さんは語ります。
人への影響も深刻で、2004年から松枯れ防除のためのネオニコ大量散布を実施した群馬県では、地上40mまで吹き上げる散布機を使い、盆地周辺の山林にアセタミプリド0.02%水溶液を散布した結果、発熱や心拍数異常を訴える患者が多数発生し、翌年も多くの人たちが同様の症状を訴えました。2006年にはネオニコ散布を中止しましたが、国産果物や茶飲料を摂取した人たちに同様の症状が起こります。頭痛、腹痛、筋肉痛、心拍数異常、近時記憶障害など、低年齢の子どもではADHD様症状、失禁などの激烈な中枢神経症状を伴う例もあり、ネオニコ中毒患者数は7ヵ月で1,111人にのぼりました。患者の尿からは、より高い濃度のネオニコを高頻度で検出しています。
◆胎盤を通過して脳に影響
細胞および動物実験の結果、哺乳類への影響として「ニコチン受容体を刺激する」、「神経発達に悪影響を与える」、「腎臓に悪影響を与える」、「遺伝子に作用し乳がんの増殖を促す」ことがわかっています。新生児ラットの小脳顆粒細胞にネオニコを投与すると、ニコチン同様に興奮性反応が見られました。哺乳類にも昆虫同様の強い影響があることが判明して、欧州ではネオニコパニックが起こり、使用禁止への契機となりました。
日本では年間約10万人が乳がんと診断され、その半数以上がエストロゲン依存性乳がんと言われています。チアクロプリドとイミダクロプリドは少ない量でエストロゲン合成酵素をつくるシグナルを増加させ、乳がん細胞を増殖させる可能性があります。
2009年1月から2010年12月に栃木県獨協医科大学病院の新生児ICUに入院した新生児57名を対象に、その尿を分析した結果、25%の尿からアセタミプリドの分解産物とジノテフランが検出されました。新生児ICUでは出生後48時間は母乳を与えないため、検出物は母体由来と推定され、ネオニコは胎盤を通過して、へその緒から胎児の体内に入ることがわかりました。そして脳血液関門を通過し、脳神経に達するのです。平さんは次のように憤ります。「子どもたちは10年以上前からネオニコに暴露されていたのです。この研究結果を見た時、どれだけショックだったか!」 これらの事実とリンクするように、この10年間、発達障害と診断される子どもが右肩上がりで増えています。以前から日本の新生児の尿と臍帯血からは多くの神経毒性物質(有機フッ素化合物、PCB、有機塩素など)が検出されていますが、さらにネオニコが新生児の尿から検出されるようになってしまったのです。
◆ネオニコフリーを増やす
さらに平さんは、これから私たちが取るべき行動として次のように提案します。「子どもたちの未来を守るために、そして持続可能な日本の一次産業のために、ネオニコフリー農産物供給の増加と、ネオニコの大規模広域同時散布の禁止が必要です。今こそ行動の時ではないでしょうか」。農産物のネオニコの使用を止めると、4〜5年で生態系への影響が減少します。また、ネオニコが入っていない食品を食べ続けると、ネオニコが体内から抜けていきます。尿中の陽性率がネオニコフリー5日目に激変し、半年で体内からほぼ抜けるということです。
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▼ネオニコチノイド系殺虫剤 子どもたちへの影響
https://table-shizenha.jp/?p=4414
なお、コープ自然派事業連合は、ネオニコチノイド系農薬の毒性や子どもの脳への影響、取り込まないためにはどうすればいいかなどをわかりやすくまとめたアニメーション動画を公開しています。
▼アニメーション動画「みんなで選ぼう ネオニコフリー!」(3分10秒)
https://www.youtube.com/watch?v=_JeBKkQ3pn0
【abtより付記】
平久美子医師が所属するネオニコチノイド研究会は2014年度の企画助成として、『浸透性殺虫剤に関する世界的な総合評価書(WIA)第1版』の翻訳を、2018年度公募助成では、ネオニコチノイドの胎児期・新生児期における毒性影響の一端を明らかにする研究を行なっています。
▼2014年度助成企画
「浸透性殺虫剤の生物多様性と生態系への影響に関する世界的な統合評価書」日本語版公開!
http://www.actbeyondtrust.org/report/1928/
なお、同研究会は下記についても監訳、監修を行なっています。
▼『浸透性殺虫剤に関する世界的な総合評価書(WIA)更新版』の日本語版発表!
ネオニコの生態系への甚大な影響を裏づける、評価書の決定版【修正第2版公開:2020/3/25】
https://www.actbeyondtrust.org/info/4932/
▼「浸透性殺虫剤の影響に関する世界的な統合評価書(WIA)更新版」第4部が発表されました
https://www.actbeyondtrust.org/info/5389/
▼2018年度公募助成
ネオニコチノイド系殺虫剤の母子間移行メカニズムの解明
https://www.actbeyondtrust.org/wp-content/uploads/2019/06/neonicken01.pdf
また、ネオニコ不使用農作物を摂取することで尿中のネオニコチノイド系農薬含有を下げられるという研究は、2018年度助成先のNPO福島県有機農業ネットワークによって行なわれました(企画名:有機農産物摂取による尿中のネオニコチノイド量低減に関する調査研究)。
▼有機農産物を食べることで、殺虫剤ネオニコチノイドへの曝露を低減できる
http://fukushima-yuuki.net/2019/03/28/有機農産物を食べることで、殺虫剤ネオニコチノ/