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トップページ 助成先レポート 哺乳類末梢・中枢神経系におけるイミダクロプリドの神経毒性発現メカニズムの薬理学的解明

助成年度:2018年
助成先:東北大学大学院薬学研究科薬理学分野 山國研究室
助成内容:哺乳類末梢・中枢神経系におけるイミダクロプリドの神経毒性発現メカニズムの薬理学的解明助

本研究は、同助成先による「哺乳類末梢・中枢神経系におけるイミダクロプリドの神経毒性に関する薬理学的研究」(2016年度)で得られた研究成果のさらなる解明を目的として行なわれました。助成先による最終報告書から、その概要と結論を抜粋してご紹介します。

ネオニコチノイド系殺虫剤イミダクロプリドは住宅用防蟻製剤にも配合され、防蟻製剤による居住者の健康被害が報告されている。この薬剤はヒトで高血圧、不整脈などの中毒症状を引き起こすことが知られている。

血液中のアドレナリン濃度の調節異常は高血圧などの循環器系疾患を引き起こす。ヒトを含む哺乳類では血液アドレナリンは副腎髄質細胞でつくられ、その細胞膜(細胞表面)に神経型ニコチン性アセチルコリン受容体タンパク質(nAChR)が存在する。この受容体はニコチンと結合できるので、こうよばれているが、生体内では本来アセチルコリンがこの受容体に結合し、アドレナリンの生合成やその血液中への分泌促進などの調節を行う。これまで哺乳類の副腎髄質細胞におけるイミダクロプリドの作用は不明であった。私たちはラット副腎髄質細胞と副腎髄質由来株細胞を用いて、その神経毒性を立証した(Toxicology 394,84-92,2018)。すなわち、この薬剤は nAChR(α3β4)部分作動薬として働き、低濃度(3-30µM)でも長時間(24時間又は 48 時間)細胞と触れると、アドレナリンの生合成に不可欠な遺伝子の転写を増強する活性を示すこと、またニコチンと一緒に処置すると、ニコチンのアドレナリン産生・分泌促進作用をさらに高めることを確認した。それでは何故低濃度にもかかわらず、イミダクロプリドは哺乳類の副腎などの細胞機能を高めることができるのか。本企画ではその解明に挑んだ。

イミダクロプリドはニコチンと併用すると、ニコチンのニコチン性アセチルコリン受容体の集積促進作用を増強する

ニコチンやイミダクロプリドで 48 時間処置した副腎髄質由来細胞から細胞膜タンパク質を回収し細胞膜に存在する nAChR 量を抗体で調べると、ニコチンは濃度依存的に受容体を細胞膜へ集積させ、イミダクロプリドにも弱いが、ニコチンと類似の作用が認められた。細胞をこの薬剤と一緒にニコチンで処置すると、受容体集積促進作用はさらに大きくなった。次に、脳の神経細胞で検討した。nAChR を発現するラット中脳ドパミン神経を培養し、両薬剤を用いて低濃度で 48 時間処置後、細胞膜の nAChR 量を調べた。その結果、中脳ドパミン神経でも同様に、ニコチンとイミダクロプリドの細胞膜への nAChR 集積促進作用が観察され、両薬剤の併用では受容体の集積はさら顕著になった。このような細胞膜への nAChR の集積が観察されたドパミン神経では、同時にドパミンの生合成に不可欠な遺伝子の転写増強が認められた。

本企画から、哺乳類の末梢・中枢神経系の細胞で発現する nAChR を標的とし、その細胞機能に影響を及ぼすイミダクロプリドの作用の実態が明らかになった。また、このネオニコチノイド系殺虫剤がその毒性発現と関連して、ニコチンの作用を模倣して細胞膜の nAChR 量の増大を誘導し、薬剤感受性の上昇を引き起こす仕組みが提示された。哺乳類の体内に侵入したイミダクロプリドは内在性のアセチルコリンと共に作用し、上記の仕組みで神経毒性を発現すると考えられる。

「合同研究会2019」(主催:日本臨床環境医学会・環境過敏症分科会、室内環境学会・環境過敏症分科会、生活環境と健康研究会/2019年9月16日 開催)で発表された本研究成果の資料を発表者の承諾を得て掲載いたします。

「薬学研究者の立場からー環境過敏症の発症メカニズム解明のための基盤研究」