公正で持続可能な社会づくりをエンパワーする

empowering actions for just and sustainable society

トップページ コラム 【絵本の中の生きものたち】孤独と連帯(3)『ミンケパットさんと小鳥たち』(1999)セーラー出版

【連載】絵本の中の生きものたち孤独と連帯(3)『ミンケパットさんと小鳥たち』(1999)セーラー出版
ウルスラ・ジェナジーノ:作、ヨゼフ・ウィルコン:絵、いずみちほこ:訳

「そんなふうに、ミンケパットさんには人間の友だちがひとりもいませんでした。でも、友だちはいっぱいいたのです。まどをあければ、小鳥の友だちがみんなで、ミンケパットさんとの音楽会を待ちかねているのでした。」

生きものの活躍する絵本を紹介する連載、「孤独と連帯」をめぐる3冊目は、孤独なおじいさんが主人公です。友だちのひとりもいないおじいさん……というと、どんな人を想像しますか。威張り屋で短気な人でしょうか。ミンケパットさんはちょっと違うようです。「すこし風変りで、いつもひとりきり」で、仕事は「森のえさばこがかり」。餌の少ない冬の森で、バードフィーダーに餌を補充する仕事です。内気で人づきあいが苦手なまま職を転々として最後に見つけたこの仕事は、ミンケパットさんの性に合っていたのでしょう。小鳥のおしゃべりの意味がわかるようになり、囀(さえず)りのメロディを覚えてしまいました。

やがてその仕事も定年になって、ミンケパットさんは一人暮らしの小さな屋根裏部屋に中古のピアノを買いました。今までに覚えた小鳥の歌をピアノで弾いてみたいと思ったからです。「人間たちの歌やダンスの音楽」のために作られたはずの楽器で鳥の歌を奏でるのは、なかなか大変なことでした。それでも練習を重ねるうちに、いつしか小鳥たちが窓辺に集まって、ピアノと一緒に歌うようになりました。冬に南へ帰る渡り鳥たちまでが屋根裏部屋で冬越しをしようと留まるのを見て、ミンケパットさんはうれしくなりました。「これから毎日、小鳥たちといっしょにあたらしい歌をれんしゅうしながら、春をまつのです」。

しかし街の人は、そんなミンケパットさんを快く思いません。1階に住むお菓子屋さんのおかみさんなどは、「おたく、ほんとうにやかましくてたまらないわ」「きのうもおたくのピアノ、すごくうるさかったわよ」と苦情を言います。ミンケパットさんは、冬を越す小鳥たちの餌代のために、少ない蓄えも底をつくようになりましたが、周囲の人たちに助けを求めることもできません。「いつもいつもきこえてくる、わけのわからないピアノの音に、みんなおこっていましたから」。

しかし、ちょっとした事件を機に、ミンケパットさんは街中の人から尊敬されるようになるのです。事件のあらましは、ぜひ絵本を手に取って確かめてみてください。終始仏頂面で笑顔を見せることもないミンケパットさんですが、最後のページでは暗い森に差し込む光の下で、鳥たちと向き合ってひとり佇んでいます。優しい心を持ちながら人づきあいを諦めてしまった老人にとって、小鳥の歌にはどんな救いがあったのでしょう。

私事で恐縮ですが、この原稿を途中まで書いたところで、生きもの好きの師匠みたいだった終生独り者の叔父が、誰にも看取られることなく亡くなりました。部屋を片づけに行くと、仲よくなったことを自慢していた「すごくかしこい野良ネコ」らしき写真が机に飾ってありました。ああ、これがあのネコだね、叔父さんと、泣き笑いしながら形見に持ち帰りました。あらためてこの絵本を開くと、孤独な人の生きものとの交流を子どもに語る作品があることをありがたく思います。ミンケパットさんみたいな人も、子どもを取り巻く世界には絶対いてほしいので。

さて、気持ちを切り替えて……
鳥の言葉の「文法」を解明しようという研究が進んでいるようです。テレビ放映のダイジェスト記事がこちらで読めます。

NHKサイエンスZERO「世界初! 『鳥の言葉』を証明した“スゴい研究”の『中身』」
予算削減で環境省が行なわなくなった鳥類の分布調査を支えるボランティアの話はこちらで。ツバメやスズメの減少が見られ、ネオニコチノイドの影響である可能性についても触れられています。
渡辺諒「野鳥探して全国7000キロ 消えかけた調査報告書が示した異変」毎日新聞

ぼちぼちのペースですが、連載は続きます。次回からは「役に立つどうぶつ?」というテーマで3冊の絵本を紹介します。