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トップページ コラム 【絵本の中の生きものたち】 秘密のくらし(2)『あめがふるときちょうちょうはどこへ』(1974)金の星社

秘密のくらし(2)『あめがふるときちょうちょうはどこへ』(1974)金の星社
メイ・ゲアリック:作、レナード・ワイスガード:絵、岡部うた子:訳

「はねが ぬれたら とべないでしょうに。いったい あめが ふるとき、ちょうちょうは、どこへ いくのかしら。」

気の毒に、子どもたちは今年も外に出にくい夏休みになりました。せめて身近にいる昆虫を探すくらいならできそうです。憧れの昆虫採集、子どもなりにやってみたのは、小学校2年生の夏休みでした。展翅なんかうまくできないので、そのへんは祖母が手伝ってくれたはず。コフキコガネ、ゴマダラカミキリ、ノシメトンボ、いずれも庭で捕まえたありふれた昆虫でしたが、今でも名前を憶えています。姿かたちのカッコイイ昆虫を集めるのは、子どもにとってはキャラクターのカードなんかをコレクションする楽しさと一緒かもしれません。レアなやつが出るとうれしい、みたいな。しかし私はその後、立派な昆虫コレクターにはなりませんでした。集めるよりも、生きて動いているのを覗き見するほうが、面白いような気がします。

今回紹介するのは、生きものの行動観察に興味を持つきっかけにもなりそうな、幼い人向けの優しい絵本です。雨が降り出すと、モグラなら土にもぐればいいし、ミツバチには帰る巣があります。ウサギは藪に駆け込んで、ウシは雨に濡れながら草を食べている。だけどチョウはどこに行くんだろう……子どもにも身近な生きものの行動を挙げながら、言われてみると不思議な疑問が主題になっています。脂で防水されているアヒルの羽根と比べて、さてチョウの翅は大丈夫なのかな、という問いに、どんな説明が考えられるでしょうか。子どもが知っていること、想像できること、見たり経験したりしたことを総動員して、自分の仮説を披露しながらページをめくると楽しそうです。最後まで読み進んでも、結局雨の日のチョウの居場所は種明かしされることなく、謎のままに終わります。

「でも、ちょうちょうは どこへ いけば みつかるのかしら。わたしは、あめのとき そとで ちょうちょうを みたことが ないのですもの。 みなさんは、どうかしら。」

本の中にない答えは、外の世界に出て自分で探すしかありません。私も気になって、雨の日にどこかにチョウはいないものかと、木の陰や藪を注意して見るようになりましたが、なかなか見つかりません。昆虫探しの達人たちは、いろいろな「虫の居どころ」を見分けるコツを知っています。活動する季節と時間、食草、好む環境など、複合的な知識が必要なようです。たとえば、私の家にジャコウアゲハがやって来たのは近所の公園でウマノスズクサを育てているおかげだし、ゴマダラチョウが来たのは側道にエノキの木があるからでしょう。幼虫の食草をちょっと知るだけでも、そんな事情がわかります。

昆虫探しの達人レベルを目指すのは遥かな道のりになりそうですが、まずは「チョウはどこにいるのかしら」と思いながら歩くだけでも、散歩の景色は違ってきます。花が咲いていても見ていない、鳥の声がしても聞いていない、夕立が来る前の風の変化を感じられない……のは、つまらない。夏休みが、たくさんの不思議と出逢う冒険の日々であったことを思い出してみませんか。

今回のオマケは、虫の残した痕跡を楽しむ方法の一例です。木の幹に開いた穴や葉の食べ跡は誰のしわざなのか?『虫のしわざ観察ガイド』で調べてはどうでしょう。書籍紹介のページには内容抜粋も。

新開孝『虫のしわざ観察ガイド 野山で見つかる食痕・産卵痕・巣