公正で持続可能な社会づくりをエンパワーする

empowering actions for just and sustainable society

トップページ コラム 【abt徒然草】#21「見えない人々を見る」

アクト・ビヨンド・トラスト(abt)のメンバーが、日々感じたことを徒然に綴る「abt徒然草」。第21回はアシスタント・プログラムオフィサーの北畠拓也です。

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4月よりアシスタント・プログラムオフィサーとしてabtに入職しました北畠拓也です。私は大学と大学院でコミュニティ・デザインを学び、研究や実践に取り組んできました。コミュニティ・デザインという言葉は「市民参加によるまちづくり」として日本でも定着しつつありますが、その源流の一つは社会的弱者をエンパワメントするためのものであり、社会的・環境的な不公正を是正するためのデザイン思想・方法論です。中でも、私自身は都市におけるホームレス問題に継続して関わってきました。2018年までは学生中心の団体に属し、現在はフリーの立場で調査研究や政策提言を行なっています。

「ホームレス状態の人々」は二重の意味で「見えない人々」であると言えます。一つは、行政などによる「調査・把握が難しい」という意味です。住所が定まらないため正確な実態把握が難しく、また日本の法で定めるホームレスは路上生活者のみを指すということもあって、ネットカフェ生活者など居住環境が不安定な(広い意味での)ホームレスの公的な実態把握はほとんど行なわれていません。

もう一つは、我々市民も多くが「認識できない・しない」という意味においてです。人間は認識しようと思わなければ目の前にあっても「見えない」ことがあります。街の中にホームレスの人がいても、普段は気にしないことがほとんどではないでしょうか。多摩川沿いの公園で綺麗な夕日を眺めるカップルの目には、対岸にあるブルーシート小屋はなかなか目に入らないようです。

日本は伝統的に住まいのセーフティネットが脆弱であるため根本的な制度改善が必要だと言われますが、まずはそうした見えない人々の実態を捉え、認識する必要があるのではないかと思います。

そのような意図から、過去には市民参加によるホームレス実態調査に取り組みました。海外で行なわれている調査を参考にしたもので、市民ボランティアの協力を得て終電後の街を隈なく歩き回り、路上生活している人の人数を把握するものです。結果として、昼間に行なわれる公的な調査の2~3倍ほどの人数の方が野宿している実態が明らかになりました。これは実態把握という目的と同時に、参加した市民が昼間の東京とは違う姿を認識するきっかけづくりの意味を持つ、見えない人々を見ようとするアクションでもありました。

昨年来続くコロナ禍でも、大きくその影響を受けたのが「見えない人々」だと言えます。休業による実質的な失業や日雇いの仕事が激減したことで、多くの方がネットカフェにすら泊まれないという状況になりました(こうした人々の多くは統計上の「失業者」としてカウントされていません)。

このような状況で、住まいを失う人々への支援を求め、支援団体と共同で東京都への政策提言を継続的に行なっています。その結果、一時的な宿泊場所提供などの支援策が実現しましたが、実態から見れば十分ではありません。多くの人が「自助」でなんとかしようと思い、住まいがなくなっても日々wi-fiを拾ってスマホで日雇い仕事を探しているというのが実態です。自分が福祉的な支援を受けられるなんて思いもしなかった、という人も少なくありません。

そういった方も制度をうまく使いながらなんとか生き抜いてもらえるよう、昨年4月から細々とではありますが支援政策の最新情報や支援団体の相談会などの情報を更新し続けています。東京に限った情報でよろしければ下記を拡散してください。

「コロナ禍で住まいを失う人が相談できる窓口紹介(東京)随時更新中」

ホームレス問題に限らず、見えにくい問題に対して実態の調査研究に基づいて市民側からアドボカシー(政策転換を目指す働きかけ)をしていくことは、公正な社会をつくるために必要だと思います。これまでの経験も生かしつつ、abtで学びながら「公正で持続可能な社会づくり」に貢献できるよう取り組んでいきます。

※写真は、都内の人目につきにくい場所での光景と2020年の東京都への申し入れの様子です。