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トップページ コラム 【abt徒然草】 #10「ご町内の密林から」

アクト・ビヨンド・トラスト(abt)のメンバーが、日々感じたことを徒然に綴る「abt徒然草」、第10回目は、助成担当の八木です。

私は田舎の子どもでした。とはいえ、関東平野の只中には里山も森や清流もなく、ちょっとした田んぼとため池くらいが身近な緑です。多くはつまらない平坦な住宅地で、子どもが農家の田畑に入ることは学校の教師からも口うるさく禁止されておりました。

そこで私は、家の庭で遊びます。踏み入ったら怒られるような美しい花壇や畑は、わが家の庭にはありません。祖父の代で越して来た狭い土地に、生物の好きな祖母とその子どもたちが面白がって好き勝手な植物を植えたので、バショウだのアケビだのモンキーパズルだの、およそ庭園向きではない木や草が混沌と茂るジャングルになっていたのです。最たるものは、叔母が高校の生物部員だった頃にもらってきたというメタセコイアで、塀際でとんでもない大木に育っていました。さすがにこれは手に負えないと、あるとき父が切り詰めましたが、1ブロック離れた先からでもわかる高い梢を家の目印にしていた自分は、ずいぶんと落胆したものです。

「八木さんちのジャングル」には、雑多な生き物たちが住み着いています。父によると「この辺の蚊は全部お前んちから来るんじゃねえのか?」とご近所に笑われていたそうですが、子どもには楽しい庭でした。精巧なトックリバチの巣、クサカゲロウの優曇華の花、見つけてもすぐに逃げてしまうカナヘビ、レースのような抜け殻を残していくアオダイショウ。ヤマブキの枝に一列に並ぶアオバハゴロモは、港に停泊する薄緑の帆のヨットみたい。レンギョウの茂みに低くしゃがみ込んで、アワフキムシの泡がきらきら光るのを見上げると、自分も虫の一員になって深い森の中に暮らしているような気持ちになりました。

庭先に図鑑やルーペを持ち出して、生き物の種類を同定しては生態を教えてくれた祖母も、虫だらけの庭を自慢にしていた父も、もういません。今も知らない植物や昆虫に出会うたび、「何でもひとに聞かずに自分で調べなさい」という祖母の口癖がイマシメのようによみがえります。あの庭を離れてから、生き物と縁遠い大人になってしまった私は、目利きの腕前も知識も、どうもパッとしません。また昔みたいにズルをして、「おばーちゃん、これなあに?」と聞きにいけたらいいのになあ……と時おり思うことがあります。

写真はクヌギカメムシの幼虫かな、おばーちゃん。公園で見つけたよー。