知ってか知らずか
一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト代表理事 星川 淳
(連載開始にあたっての前置きは第1回をどうぞ)
第2回は、この連載を思い立ったきっかけを含め、日本語を書く上での初歩的なルールに関わる問題点を2つ取り上げます。
改段落の扱い
近年の横書きウェブ書式では、現代の英語書式を真似て、段落冒頭の1字下げをしないことがほとんどです。これは変化する日本語の一端で、筆者も取り入れています。ところが、この書式で段落を改める場合、1行アキを取らずに次の段落を続ける例を数多く目にします。これには強烈な違和感があり、部内では厳禁としています。その理由は実際の文例を示すと一番わかりやすいのですが、読者が見るのがウェブページかFacebook投稿か、PC画面かスマホかで書式が変わってしまうため、言葉で下記のとおり説明するしかありません。
次の段落とのあいだに1行アキを入れない書き方だと、たまたま前の段落の最終行が行末(右端)に近いところで終わったら、次の段落との区切りがはっきりせず、ぎっしり文字が続くことになります[文例1]。もしも偶然、さらに次の段落とのあいだでも同じことが起こったらどうでしょう。段落を改める意味がなくなってしまいますね。
このように、偶然(前段落の最終行がたまたま行末まで達しない)に依存する文章作法は感心しません。段落冒頭の1字下げをしない書式では、必ず次の段落とのあいだに1行アキを入れる必要があります[文例2](個人間のやりとりや部内のメールなどは堅苦しく考えなくてかまわないでしょう)。なお、紙媒体の伝統的な縦書き書式では1字下げが慣例です[それを横書きにした文例3]。
ただし、横書きでも例外はあります。たとえば、何ページにもわたる長い論文や報告書をレイアウトする際、小見出し直下の段落は冒頭の1字下げをせず、続く段落は冒頭1字下げをしたうえで、改行後の行アキを取らないといった変則的な形です(あくまでも変則で、一般的には1字下げをするかしないか、どちらかに統一するのが基本)。さらに、同じ小見出しのセクション内で、内容的な区切りがあれば1行アキを入れて、次の段落冒頭は1字下げをせず、また続く数段落は冒頭1字下げと行アキなしにすることも考えられます。こうした柔軟な処理は、全体のスペースを節約しながら、見た目がぎっしり文字だらけにならず、段落の区切りもわかりやすくする工夫です。
見た目が文字だらけにならない配慮は、漢字を使うかひらがなに開くかの選択にも関係しますが、それについては回を改めて――。
「 」と『 』の使い分け
もう一つ、近年よく目にして頭を抱えるのは、一重カギ(「 」)と二重カギ(『 』)の混乱です。これには確立されたルールがあって、映画や書名、雑誌名、学術誌名などは二重カギ、記事や報告書(レポート)、論文のタイトル、音楽の曲名、絵の題名などは一重カギ「 」で括(くく)るのが原則です。また、地(じ)の文に既出の文献・記事などからの引用や、だれかの発言を挿入する場合は一重カギ、その一重カギの中でさらに引用や発言が出てくる場合は二重カギを使うことになっています。最近の教育カリキュラムは確認していませんが、早ければ小学校、遅くとも中高のあいだに習うのではないでしょうか。
ところが、これらがまったく逆転したり、地の文に発言を引用するのにいきなり二重カギで括ったりする例を、かなりの頻度で見かけます。しかも、第三者の校閲を通っているはずのプロないしセミプロの文章にさえ散見されるのです。難しい決まりではありませんから、単純にルールを守ることを勧めます。
なお、紙媒体でよく用いられる引用の体裁に、引用部分を地の文のアタマより2~3字分下げる「インデント」があり、ウェブテキストでも効果的に使えることがあります。
ついでに、書籍の紹介には必ず著者名を添え(場合によっては訳者名も)、書名の後ろに丸カッコ( )で版元を示すと読み手に親切で、そのため慣例にもなっています。
「読み手に親切」が出てきたところで、このあと第3回は文章を綴るとき筆者が大切にする心構え的なことに触れ、第4回ではまた技術的な話に戻るというリズムで進めていく予定です。
第1回「言葉の森を守る」はこちらから
第3回「読み手の海へ漕ぎ出す」はこちら