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トップページ コラム 【絵本の中の生きものたち】春の特別編「新社会人に贈る3冊」

【連載】絵本の中の生きものたち
春の特別編「新社会人に贈る3冊」

不定期連載の本稿、今回は新社会人に贈る絵本をご紹介します。「働くとは?」を考える3冊ですが、なにぶん主人公は動物なので、春からの新生活に役に立つ……ことはたぶんないかも。

『ぐるんぱのようちえん』(1965)福音館書店
西内みなみ:作、堀内誠一:絵

新社会人の皆さま、お仕事どうですか。働くって大変ですよね。私は何度も転職を繰り返していますが、新卒の頃には任せてもらえる仕事も大してなく、地下の倉庫に追いやられて不要書類をひたすらシュレッダーにかけ続けている日もありました。意外と楽しいんですけどね。そんなわけで、最初に紹介するのは、大きな象の「ぐるんぱ」の就職のお話です。

ぐるんぱはずっとひとりぼっちで、「すごく きたなくて くさーい においもします」という境遇。子ども向けの絵本にしてはかなり不穏な始まりです。「さみしいな さみしいな」とジャングルで泣いているぐるんぱですが、ある日、他の象たちが集まって、ぐるんぱを「はたらきに だそう」と決定します。みんなで川に連れ出してきれいに洗ったら「みちがえるほど りっぱに」なりました。そこで、ぐるんぱは意気揚々と仕事を探しに出かけます。自分の意思で働くことを決めたわけではなく、コミュニティの決定であったところが、なんとなく、大人が読むと引っかかるところ。

その後、ビスケット屋さん、お皿つくり、靴屋さん、ピアノ工場、自動車工場と、仕事を転々とするのですが、ぐるんぱはどこへいっても失敗ばかり。ビスケットもお皿も靴もピアノもスポーツカーも、ぐるんぱの作るものは大きすぎて「もう けっこう」と言われてしまうのです。このへんの描写はなかなかつらい。「ぐるんぱは、しょんぼり しょんぼり しょんぼり……」と、失敗の数だけ「しょんぼり」の数が増えていく繰り返しは、何だか他人事に思えません。そんなぐるんぱ、どうなるのでしょう。最後のページでは、泣いていたぐるんぱは「もう さみしくありません」と笑っていますから、ひとりぼっちだった象の華麗な転身を見届けてくださいね。

就職するって確かに、ひとりぼっちのジャングルから勇気を振り絞って飛び出して、大人の都合が支配する知らない世界に、無理やり自分を合わせていくかのよう。「どうぶつ=仕事のルールをよく知らない存在」と、「にんげん=仕事を熟知して切り盛りしてきた存在」たちとの対比は、会社での「新人」と「上司」との関係の比喩にもなる。だから、動物が働きに出て苦労する話は、どうも身につまされてしまうのかもしれません。同じく2冊目も、涙なくして読めないお話です。

『ペロのおしごと』(2018)小学館
樋勝朋巳:作、絵

ぐるんぱの自立を促したのはコミュニティの圧力でしたが、いぬのペロには働くための主体的な動機があります。それは、大好きなおかあさんにすてきなネックレスをプレゼントすること。そのためにペロは、ある日ついに決心し、仕事を探しに出かけます。ペロは「じぶんに できそうな おしごとを ずっとずっと かんがえていた」ので、働くことへの自分なりのプランがあったのですね。

まず出かけたのは「ごきんじょの せいこついん」。おかあさんの肩もみをしたことのあるペロなので、きっと役に立てると思いました。しかし整骨院にはすでにお手伝いの「おさるちゃん」がいて「きようなてで かんじゃさんを マッサージ」していたので、村田整骨院の先生に断られてしまいました。「ごめんね、ペロちゃん」。

次に向かったのは郵便局。切手をぺろっとなめるお仕事を申し出たところ、「たすかります」と雇ってもらえましたが、ちょっとトラブルが。結局、ペロもぐるんぱと同じく、いくつもの職を転々とする羽目になりました。ペロの健気(けなげ)なところは、自分にできそうなことを懸命に考えて、それをがんばってみるところ。しかし、サーカス団での玉乗りは「なんど れんしゅうしても まったくうまくなりません」し、「トラのごふうふ」が親切にお手本を見せてくれた火の輪くぐりも、「どうしても こわくて」できませんでした。がんばったのに、やっぱりうまくいかなくて、「おせわになりました」と仕方なく辞職のごあいさつをするシーンが、とても胸に迫ります。どの仕事もうまくいかず、背中を丸めて途方に暮れて歩くうちに、「なみだが ぽろっと」流れます。「ぽろぽろぽろぽろ なきながら、ペロは ひとりで あるきつづけました」。私もそんな気持ちで、一人で街を歩いたことがあるよ、ペロ。

ああ、もう。働くことは、なんて大変なんでしょう。だけど、だけど、これは絵本ですから。ペロも最後には、とてもすてきな解決策にたどり着きますよ。お仕事して買ってあげたかったネックレスを、意外な方法でおかあさんにプレゼントできました。よかったね、ペロ。だから、仕事がうまくいかなくて泣きたいとき、何のために働くのか目標を見失ったとき、自分の取り柄がわからなくなったとき、この絵本を読んで、ペロと一緒に考えてみてはいかがでしょう。

悲しい話ばかりになりましたので、最後は、仕事をナメているとしか思えないふざけたお話を。

『劇団どうぶつ座 旗揚げ公演 パンダのぱんや』(2007)岩崎書店
穂高順也:作、深見春夫:絵

「劇団どうぶつ座」のお芝居の中の話という体裁ですが、とにかくこのパンダのパン屋はデタラメです。「うきわパンとパンツパン」とか、「せかいでいちばんまずいパン」とか、辛くて食べると火を吐く「かいじゅうパン」とか、ひどいパンばかり作っているし、そのうえお客にクイズを出して、間違えると頭の上からバケツでザバーっと水を降らせる。でもまあ、老舗ののれんを背負う重圧とか、「パンダのパンや」なりの事情もいろいろあることが最後にわかります。

パンを買いに行ったねこのトラキチは散々な目に遭いましたが、もっとマトモな商売を期待するのなら、「からすのパンやさん」に行ったほうがよかったかもしれませんね。あちらは顧客のニーズに合わせた新商品の創意工夫が有名な家族経営の繁盛店ですので、たぶん大丈夫でしょう。テレビの『プロジェクトX』にだってなりそうなお店ですから。

以上、新社会人に贈る、お仕事を考える3冊でした。パンダのパン屋並みに、「看板に偽りあり」なデタラメな内容になってしまいましたね。動物たちも、しんどいお仕事をなんとかがんばっています。いろいろあるけど、生き延びましょう、社会人のみなさん!