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【講演2】桃井貴子(NPO法人気候ネットワーク理事・東京事務局長)
「日本のエネルギー政策は本当に温暖化を止められるのか」

 

プロフィール)
桃井貴子(ももい・たかこ/NPO法人気候ネットワーク理事・東京事務局長)
大学在学中より環境保護活動に取り組み、卒業後は環境NGO職員、衆議院議員秘書等を経て、2008年より気候ネットワークのスタッフとなり、2013年より現職。2011年3月の福島での原発事故後、原発もない、温暖化もない未来をめざし、エネルギー・気候変動問題を中心に取り組み、様々な団体と連携して活動を展開。2017年、「石炭火力を考える東京湾の会」など袖ヶ浦、千葉、市原、横須賀の石炭火力計画の中止に向けた運動に地元の人とともに取り組み、千葉県での石炭火力発電所計画の中止を実現させた。

 

官民あげてのグリーンウォッシュ

 

今日のテーマは「日本のエネルギー政策は本当に温暖化を止められるのか」です。さらに「政府の政策は、官民あげてのグリーンウォッシュ」と書きました。先ほどの明日香先生の話とも重なる部分があるので、そこは少し省略しながら進めていきたいと思います。

 

こちらのスライド[p.2]は、日本の温室効果ガスの排出構造を理解していくために載せたものです。1990年以降2020年までの排出量の推移をガス別に表しています。京都議定書の第一約束期間というのが2008年から2012年まであって、90年比マイナス6%が削減目標でした。本当は、97年に京都議定書の国際会議が開催されたときに、環境NGOは「2010年くらいまでのタイミングでまずは20%削減が必要だ」と言っていたのですが、日本においては経団連の非常に強い抵抗があり、「0%以下にはしない」という最初からの約束があったようです。それでもマイナス6%を受け入れざるを得ませんでしたが、そのなかに森林吸収源3.8%が加わるなどして、産業界においては0%より下げないことが実質的には守られてしまった状況でした。

 

結果的には、京都議定書第一約束期間に重なるタイミングでリーマンショックがあって経済が落ち込んだことで排出量が減る状況が生まれ、マイナス6%を達成しましたが、その後排出量は増えてしまいました。東日本大震災以降、徐々にまた減らしているのですが、省エネ効果などが要因とされています。

 

削減目標達成への経路が見えない

 

温室効果ガス排出量の約9割はCO2によるものです。政府のこれからの削減目標としては、「2030年に13年度比46%~50%の高みを目指す」ことと、2050年に実質排出ゼロというのが公式に発表されている数字です。先ほど直線的な削減では全然足りないという話があったのですが、いまこの図[p.3]では削減目標数値を直線的につないでみました。これ自体も、政府は別にこの直線のような形で削減しますと約束しているわけはなく、極論をいえば「2030年と2050年のポイントでだけ下がっていればいい」ことになっています。どうやってこのポイントをつないでいくのかという経路は、いまの段階ではまったく見えていません。

 

図:日本の温室効果ガス排出量(大規模事業所の事業種別)

 

では、日本の温室効果ガスはどこから排出されているのでしょうか。全体の排出量を事業種別で分けたスライドです[p.4]。温室効果ガス排出量算定報告制度があり、それを開示して分析した結果ですが、最新のデータが2018年度のものになります。排出構造はずっと変わっていなくて、発電所からのものが約3~4割を毎年恒常的に占めている形になっています。排出量算定報告制度で報告を出さなくてはいけないのは一定規模以上のエネルギーを使う事業者なので、かなり大規模なところです。そういう大規模事業者だけで日本全体の排出量の約7割を占めています。また、そのうちの3割以上が発電所で、いかに発電所の割合が大きいかがわかると思います。発電所のなかでも排出量としては石炭が55.1%を占めています。石炭の発電に占める割合は天然ガスよりも少ないのですが、石炭の排出係数が高いので排出量が多くなるという状態が生まれています。

 

日本の2050年カーボンニュートラルに向けた基本的な考え方が、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」にまとめられて示されていますが、これを見ますと、ありとあらゆる政策・対策を列挙しているところがあります。エネルギーに関しては、再エネ最優先原則、徹底した省エネなどが書いてありますし、電源の脱炭素化、水素、アンモニア、原子力などあらゆる選択肢を追求するなど、すべてが羅列されてある形です。結果的にいま、どこにお金がかかっているのかを見ていくとわかりやすいと思うのですが、「イノベーションの推進」や「グリーン・ファイナンスの推進」といったところに、かなり予算がついているのが実態だと思います[p.5]。

 

排出量の多寡よりも「挑戦」が評価される?

 

今年になって、経済産業省がグリーントランスフォーメーション(GX)ということで、GXリーグ構想というのを発表して、企業を募集しました[p.6]。このときには440社が集まったということで、6月20日にGXリーグがキックオフされています。経団連に入っているようなそうそうたる大規模排出事業者などが名を連ねています。電力会社は全部入っていますし、自動車メーカー、大手のブランドメーカー、運輸関係の業種など、いろいろなところが入っている感じです。ここで何を目指すのかという中身を見てみますと、「企業が世界に貢献するためのリーダーシップのあり方を示す」とあります。「GXとイノベーションを両立し、いち早く移行の挑戦・実践をした者が、生活者に選ばれ、適切に『儲ける』構造を作る」となっています。つまり、削減をする人が生活者に選ばれて儲けるのではなくて、「挑戦」をした人が儲けると読むことができると思います。

 

それから、「企業のGX投資が、金融市場、労働市場、市民社会から、応援される仕組みを作る」ということです。これまでは野心的な削減目標とか排出量の多寡が評価されていたけれども、今後はそれよりも移行努力などが評価されることが必要なんですよ、と言っています。しかし、実質的な温室効果ガスの削減をうやむやにして、ただ挑戦だけすればそれでよいとなると、市民からも世界からも受け入れられず、結局日本企業は負け組になっていってしまうのではないかと思います。

 

では、「その先に目指す目標があるのか?」です。これも先ほど言った通りなので繰り返しになりますが、目指すべきが「CO2削減」ではないのです。経産省からは「GXリーグは必ずしも明確なゴールがあるかというと、2050年はいろんな意味で不透明さが高い中で、いろんな形で試行錯誤をしながらやっていくのが実態ではないかと思います」(梶川文博 経済産業省 環境経済室長)という発言もあります[p.7]。つまり、経済産業省が企業の方たちに向けて、野心的な削減目標や排出量の多さは問わず、イノベーションに向けてチャレンジしていこうよ、というメッセージです。実際削減の規制は何らありませんし、目標設定も含めて企業の自主的取り組みに委ねられているだけです。

 

世界が「脱石炭」に向かうなかで日本は……

 

石炭火力の話に入っていきたいと思うのですが、いままで経産省主導型の政策が進められてきた日本では、世界が「脱石炭」という方向に大きく舵を切る中で唯一、次々と石炭火力発電所が増えて稼働が進められてきました[p.8]。将来的にも、2030年の段階で電源構成はエネルギーミックスで石炭を19%まで残していて、1.5℃目標達成にまったく整合していない状況です。

 

図:増え続けてきた石炭火力による発電

 

ここに、排出事業者の上位15位を掲載していますが、上から中部電力とか鉄鋼会社のJFEスチール、新日鉄、東京電力フュエル&パワーなどがあります[p.9]。いま中部電力と東京電力はJERAという会社をつくっていますが、この数字は2018年が最新になるので、このときにはまだJERAに移行していませんでした。ですから、中部電力と東京電力がそのまま書かれていますけれども、これらはそれぞれ、いまはJERAが持っている発電所になります。

 

ちょうど菅首相が2020年10月に「2050年カーボンニュートラル宣言」をして、実質排出ゼロを2050年までにやると宣言したのですが、その2週間前くらいにJERAが「ゼロエミッション宣言」をしているんです。その時間的な前後関係を見ると、一連の流れがあらかじめ作られていたのではないかと思っています。「JERAゼロエミッション2050」の中身では、非効率石炭火力は停廃止するとあります[p.10]。そして、アンモニア混焼を進めるということで、実証や本格運用をこれからやっていき、2040年までには混焼率20%を目指すとあります。この混焼率を増やして、最終的にはアンモニアを専燃化していくことで、CO2排出量ゼロを達成する「チャレンジ」だということです。水素に関しても同じような状況ですね。あとは再エネを増やすというのもあります。

 

「ゼロエミッション 2050」の中身と現状

 

非効率石炭火力の停止、アンモニア混焼、水素も混ぜていくことで「ゼロエミッション」だと彼らは言っているのですが、ではいまの足元がどんな状況かと言いますと、抱えているたくさんの石炭火力発電所[p.11]のうち、廃止を宣言している非効率石炭火力発電所というのは碧南発電所(愛知)の1・2号機だけです。つまり、今後の「停止」の対象になるのはわずか2基で、これすら止めるかどうかもはっきりはわからないですが、それ以外はずっと動かし続けるということにも読めます。2022年になってから武豊発電所(愛知)という、すごく大きな石炭火力発電所を動かしています。これは2022年8月から稼働しました。

 

それから横須賀でも、いま2基の新しい石炭火力発電所を建設中で、これらはいずれもアンモニア混焼タイプにはなっていません。石炭専焼もしくは石炭とバイオマス燃料を混ぜるところまででしか作られていません。ですから、2040年までにアンモニア混焼20%を目指すというのは、おそらくいま試験中の碧南発電所5号機のことだと思うのですが、現時点ではアンモニアを0.02%混ぜているだけという非常に乏しい状態です。実際は削減できていないのに、「私たちはゼロエミッションを目指している本当にチャレンジングな企業です」と言って、経済産業省に応援され、私たちの税金が投じられています。

 

いま日本政府はGX実行会議を岸田首相のもとに開催していますが、この実行推進担当を西村康稔経産相大臣がされているので、経産省イニシアチブの会議だと思ってよいと思います。その中で、エネルギーの安定供給をテーマにした議論が第2回目の会議で行なわれました。JERAの親会社である中部電力の代表取締役がメンバーに入っていまして、トランジションのイメージとしているのがこちら[p.12]になります。この「電力量の推移(イメージ)」のなかで出している2050年の参考値では、電力消費量がものすごく増えています。「省エネするんじゃなかったの?」という突っ込みをまずしたくなるのですが、直前の35年までは石炭をたくさん使い続け、再エネも徐々には増えるイメージを出しているものの、LNGも増やして、そこに少しアンモニアや水素混焼が入ってくるという位置づけです。こういう会議をしながら、これに対して批判的な人は誰も参加しておらず、みんなが「そうだね、そうだね」と言うようなメンバーで構成されているところで、日本の政策が決まってしまっているということです。

 

むしろ再エネの足を引っ張る「アップサイクル」

 

JERAとJ-POWER(電源開発)が日本の2大電力会社、発電事業者になりますけれども、JERAの発表に遅れること半年後に同じようにJ-POWERが「J-POWER BLUE MISSION 2050」を発表しています[p.13]。やはり「CO2フリー水素エネルギー」ということで水素発電や燃料製造をして、この図には「アップサイクル(既存設備へのガス化炉追加)」と書いてありますが、これを進めていくことになります。それ以外にも、いまJ-POWERは大間で原発を建設していることもあり、原子力や再エネを併用して実質排出ゼロを目指すと言っています。

 

J-POWERは、JERAと並んで非常にたくさんの石炭火力発電所を抱えています[p.14]。松島火力という非常に古い老朽火力発電所に関しては、ここを「アップサイクル」して石炭をガス化させて一緒に燃焼させる計画が進められています。この「GENESIS松島」計画を見ると、実際にアップサイクルしても、いままでの石炭火力より若干は減るかもしれないけれども、ほとんど変わらないような排出量です。このように火力発電所がこれから先も残ってしまうことで、むしろ九州では出力制限のために再エネを止めなければいけないという状況も生まれています[p.15]。

 

抜本的に政策を見直さないと削減できない

 

いま事業者が計画しているものを全部足し合わせてみると、今後2030年を越えても国が設定している石炭火力19%という電源構成の割合を大幅に超えて、32%と高くなってしまいます[p.16]。そういう石炭火力の延命へと方向付けをしているのが政府です。たとえば容量市場という新たな一兆円規模の市場を作り、経産省の会議だけでどんどん決めていく形で、1兆円のうちの約4分の1は既存の石炭火力に充てられる仕組みになってしまっています[p.17]。これでは「お金をもらえるから私たちは石炭火力を続けます」と電力会社に言わせているようなものです。

 

水素、アンモニアに関しても非常に問題が多くあります[p.18]。混ぜればCO2排出量が削減するとか、アンモニアを燃やしてもCO2を出さないと言われていますが、いま使っているアンモニアや水素は、もともと化石燃料由来のもので、「ブラック水素」とか「ブラウンアンモニア」と言われています。しかし、政府は製造過程のCO2排出を問わず、燃やしたときだけCO2が出なければそれでよしとしているのです。ですから、混ぜてもCO2排出量は減らないことがわかっています。

 

それから、CCS(二酸化炭素回収貯留)も、いまのところまったく目途がたっていない状況です[p.19]。2030年に向けた日本の課題はこちらのスライド[p.20]に書いてある通り(「国の政策/第7次エネルギー基本計画見直し」「足元からのエネルギーの在り方の見直し」「政策決定プロセスの見直し」)で、抜本的に政策を見直していく必要があり、このままでは減らないという結論です。

 

 

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