【Future Dialogue】第6回〈これってホントに脱炭素?!〉身近にあふれるグリーンウォッシュを徹底検証 エネルギーシフトの専門家が答えます
【講演3】吉田明子(国際環境NGO FoE Japan)
「『再エネ』でんきとグリーンウォッシュ」
プロフィール)
吉田明子(よしだ・あきこ/国際環境NGO FoE Japan理事 気候変動、エネルギー担当)
2007年よりFoE Japanスタッフ。気候変動やエネルギー政策を中心に担当。3・11後にできたネットワーク「eシフト」の事務局、2015年からは市民のちからで再エネ選択を呼びかける「パワーシフト・キャンペーン」を立ち上げる。エネルギー政策に市民の声を届ける観点で活動する。
そのでんきは本当に「エコ」なのか?
明日香さんと桃井さんから、日本の現在のエネルギー政策そのものが、いかにグリーンウォッシュかということを話していただきました。私のほうではエネルギー政策に関しても一緒に取り組んでいるのですが、再エネを重視する電力会社を選ぼうという「パワーシフト・キャンペーン」をやってもいますので、そのような観点から、電気のグリーンウォッシュにはどんなものがあるのか、またどんな点に気をつけて選べばよいかといったことをお話しいたします。
日本の政策は、再エネを重視する段階にさえ至っていないのが本当に問題です。再エネへのシフトの前に原子力も重要だとか、本当にできるかもわからないけれど化石燃料も脱炭素化して使っていくなどとして、再エネを重視するところまでいっていません。これは本当に危機的な状況だと思います。しかし、いま出てきている再エネ電気についても、少し注意しなくてはいけないところがあります。
「再エネ100%」の電気が、最近たくさんの電力会社から販売されるようになっています。水力やバイオマス、太陽光などがありますが、電気そのものに、後述する「証書」を張りつけることで、実質再エネ100%とすることもできます。ですので、再エネ100%の電気と言われているときには、まずその電源構成を確認して、「どんな電気なのか?」「どんな証書がついているのか?」を確認することが必要になってきます[p.4]。
どの「非化石価値証書」がついているのか
まず、「非化石価値証書」という電気の外側に張りつけて「再エネ100%」「CO2ゼロ」とするラベルがあるのですが、それにも種類があります[p.5]。2012年に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)ができて以降の再生可能エネルギーによる「FIT非化石証書」は、すべてとは言わないのですが、多くが最近約10年以内につくられている再エネの証書です。「非FIT非化石証書」というFITではない再エネの非化石証書というのもあり、これは大型の水力発電であることが多いです。そのほとんどが大手電力会社で、何十年も前に私たちみんなの電気料金で造った大型ダムの水力発電の環境価値部分ということになります。それ以外にも、FITではない「非FIT非化石証書」で再エネではないものがあり、これが要注意です。ここには原子力発電や廃棄物発電の証書というのも入ってきてしまいます。ですから「再エネ100%」もしくは「CO2ゼロの電気」といったときに、どの証書がついているのかを見ることが大切です。
電源構成はどうなっているか
(具体的な事例については、報告と映像では一部割愛)。その電源構成の内容を見ると水力がほとんどです。これは大手電力が以前から持っていた水力発電所の電気に証書をつけたものになります。この水力の電気をどう考えるかですが、確かに大規模なダムなのでCO2は出ないかもしれません。しかし、そのダムはもう何十年前からずっとあるわけです。そのダムで作った電気を切り取って売っているだけで、消費者がこれを選ぶことによって大手電力がそのお金を新しく再エネに投資するのかといえば、そうではないですよね。そう考えると、結局は大手電力の収入として経営を支え、それが原子力、化石燃料にも使われていくことを否定できません。今後は「再エネ100%」の内容もよりよいものにしていかなければならないという課題があります[p.6]。
バイオマス発電の燃料はどこから調達しているか
バイオマスというと一見環境にやさしい感じがしますが、大規模なものについては、ほとんどが海外から燃料を輸入しなければ運営できません。海外から大量に燃料を輸入するとなると、たとえばパーム系のPKSとかパームヤシの幹などはインドネシアやマレーシアから、木質ペレットや木質チップなどはアメリカ、カナダ、ベトナム、ロシアなどから輸入していますので、燃料調達のための伐採・運搬の環境負荷が大きいです。
バイオマス発電は「ゼロカーボン」と言われていて、木などを伐採したあとにきちんと植林をして完全に元に戻せばそのように言えるかもしれないのですが、途上国やカナダ、アメリカなどで大規模な伐採を行なうと、それを完全に元に戻すことは実際にはかなり難しい。行なっていない可能性が強く危惧されます。そう考えると、実際には「バイオマスだからゼロカーボン」と言うことはできないと環境団体などは指摘しています。ですから、バイオマス発電の場合も、燃料の調達先を含め、どういう発電なのかを見る必要があります。
エシカル・持続可能な「再エネ」を選ぶには
ということで、再エネ100%調達を進めていく必要があるのですが、「要注意」です[p.6]。「CO2ゼロエミ電気」という場合には、もとの電源が火力や原発で、そこにたとえば原子力の証書をつけることによっても「CO2ゼロエミ電気」と言うことができてしまいます。「実質再エネ」も、もとの電源は火力や原発で、そこに再エネの証書をつけることができてしまいます。それから、「持続可能ではない再エネ」としては、先ほど見たような一部のバイオマス発電、森林伐採や土地改変を伴う形での太陽光発電などもあり、どういった再エネなのかを見ていくことが必要です。それから「既存の大規模水力の電気」も「悪い」とまでは言えませんが、大手電力がメニューとして打ち出している場合が多くて、そうなると結局は大手電力の経営を支えるためだけになっている場合が多いということです。
この背景には、やはり大手電力がまだまだ圧倒的な力を持っているという現実があります[p.7]。これまでの電源、発電所についても、原子力もそうですし大型のダム、古い火力発電といったものを大手電力会社がほとんど持っています。なかでもとくに水力発電などは大手電力会社が独占しているからこそ、先ほどのような水力100%での再エネ100%メニューを提供できているのです。そういった電力市場のアンバランス、大手電力会社のほぼ独占がまだ続いていて、再エネの新電力会社などと比べると圧倒的なパワーを持っている状況があります。
「パワーシフト・キャンペーン」が重視する7つ
そんななかで私たちは、市民や地域に根差した再エネの電源を選んでいこうと呼びかけています[p.8]。安いものを求めると、やはりそれは「化石燃料の発電を使い続けよう」とか、「原子力を再稼働して使い続けよう」という方向につながってしまいます[p.9]。私たちの力でエネルギー構造も民主化していこうということで、「パワーシフト・キャンペーン」をやっています[p.10]。重視する点を7つ、このように掲げています[p.11]。
「1.再エネ社会への理念」「2.電源構成など情報開示」「3.再エネ重視の調達」「4.持続可能な再エネ」「5.地域や市民の再エネを重視」「6.原発や石炭火力は調達しない」「7.大手電力の子会社などではない」
とくに、「調達する再生可能エネルギーは持続可能性のあるものであること」を掲げています[p.12]。再エネの中でも、バイオマス発電の種類や、どのように作られているのかなどをちゃんと見ていく必要があると考えています。そうした方向でやっている電力会社を42社、いまウェブサイトで紹介しています[p.13]。まだまだ大手電力会社が大きな力を持っていて、日本の政策も原子力や化石燃料、石炭火力を擁護する方向ですので、それに対抗していくことが必要です。
いま、電力の市場価格の高騰が起こっていますけれども、これも同じ構造で起きているので「再エネ新電力が倒産のピンチ! 政府は対策を講じてください」という署名活動をしています[p.18]。電力需給ひっ迫についても「原発再稼働をしていかなければ」と言われるのですが、これもグリーンウォッシュです[p.20]。いま必要なのは、変動する再エネにあわせて柔軟に電力の使い方を見直したり、発電も柔軟に調整するシステムに大きく変えたりしていくことです。原子力のような融通のきかない大型電源を使うことは、むしろこれに逆行してしまいます。
「気候変動変動かるた」で見るグリーンウォッシュ
最後に、FoE Japanで最近つくった「気候変動かるた」から、気候正義とグリーンウォッシュについて見てみたいと思います[p.22~28]。
「おうちでも自然エネルギー使おうよ」
「石炭は 掘らない 出さない 燃やさない」
「不可能な 核のゴミ処理 どうするの?」
「伝統と 地球をまもる 先住民族」
「その便利 だれかを犠牲に していない?」
単にCO2を出さないということではなくて、社会のあり方を大きく変えていく必要があります。そのなかで「グリーンウォッシュではないもの」を私たちが選択していくことが必要だと思っています。