公正で持続可能な社会づくりをエンパワーする

empowering actions for just and sustainable society


 

【民間や若者による活動事例の紹介】
活動事例の紹介①
角谷樹環/Fridays For Future Sapporo オーガナイザー

プロフィール)
角谷樹環(かどや・こだま/Fridays For Future Sapporo オーガナイザー)
北海道十勝在住。昨年の9月ごろからFridays For Futureに加わる。衆議院選・参議院選の討論会、世界一斉で行なう世界気候アクション、COP26に合わせた国内アクションなどに取り組む。さまざまな考え方を勉強しながら、自分がするべきことを模索中。

 

気候変動の対策を求める若い世代の運動

 

まず「Fridays For Future(FFF)とは」ですが、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんのストライキをきっかけに始まった運動です。気候変動に対する行動の欠如に抗議する若い世代が政策や企業に道徳的な圧力をかけることを目的としていて、気候正義を追求して連帯して行動することで、社会構造に大変革を起こすということをやっています。

 

簡単にいままでの日本でのFFFの活動を紹介すると、2018年8月にグレタさんが金曜日のストライキを開始したあと、日本では2019年3月に初めてグローバル気候マーチが行なわれました。その後もマーチをしたり、3大メガバンクの株主総会に参加したり、学生気候危機サミットを開催したりしてきました。コロナ禍になってからは、デジタル気候マーチということで、オンライン上で集まって気候変動への対策を求めることをしています。

 

また、小泉元環境大臣と意見交換会をしたり、気候変動対策を求める署名を集めたりしました。その際には約4万筆の署名が集まりました。マーチなどが主な活動ですが、このままでは大きな変化が起こらないということで、NDC(Nationally Determined Contribution=温室効果ガスの排出削減目標)の大幅な引き上げを求めて2021年4月に有志による学校ストライキをしました。また、その後は世界気候アクション(GDCA)でFFFが行なっているシューズアクションを日本でも実施しました。また、2021年4月23日にはFFFのメンバーが衆議院環境委員会に参考人として出席しています。

 

そのあとも、世界気候アクションなどを行ない、衆議院選挙に向けて各政党の議員らと意見交換するオンライン討論会を開きました。また、ご存知の方も多いかと思いますが、昨年のCOP26に日本のFFFの高校生や大学生が参加し、各国の活動と合流してCOPでの状況を日本に共有しました。また、同日アクションを日本でも開催し、東京で街頭に立って各地域とつなげながら世界気候アクションを行ないました。

 

最近の日本でのFFFのアクション

 

ここからは最近なのですが、「#気候危機みんなで動けば怖くない」というハッシュタグのもと、「世界気候アクション0325」を開催。また、参院選挙に向けて「気候危機も選挙の争点に」ということでアクションを行なったり、衆議院選挙と同じですが、各政党の気候変動対策をテーマに討論会を開催したりしました。2022年9月に実施した「世界気候アクション0923」には、参加してくださった方も多いかと思います。各地域で開催して、参加人数は800人以上ということで、東京のマーチには多くの方が参加してくださったのかなと思います。

 

「世界気候アクション0325」では、ディマンドとして国内外の脱石炭と温室効果ガス削減目標の見直し62%以上、また「公正な移行」の実現、持続可能な社会への移行において職を失う方々に対して安定した雇用先を提供することを求めました。また、4つ目なのですが、グリーンウォッシュの規制も求めています。ここまでが、いままでの日本のFFFの簡単な紹介になります。

 

いまやらないと本当に間に合わない

 

ここから少しですが、どうして私が活動に参加しているのか、どんな思いを持って活動に参加しているかを簡単にお話ししたいと思います。私は昨年9月にFFFで活動を始めました。活動のきっかけは、小さいころに家の本棚にあったカナダの環境活動家セヴァン・スズキさんの本を読んで気候変動に興味を持ったことで、将来は気候変動を止めるために活動をしたいなとぼんやり考えていました。「大人になったらやろう」と考えていたのですが、中学生の時にグレタさんの活動を知り、「いまやらないと本当に間に合わないんだ」ということを初めて意識して、強い衝撃を受けました。そのときは私は自分が「被害者」だと思っていたので、私の未来が本当になくなってしまうかもしれないんだと思って、「これは活動しなきゃいけない」と思い、受験勉強を忘れながら活動しました。

 

活動していくなかで、私はずっと自分は被害者だと思っていたのですけれど、先進国に住んでいるというだけで、また先ほどの話にもあったように安いものを選んで購入することで、MAPA(Most Affected People and Areas)と呼ばれる、最も気候変動によって影響を受ける人たちの生活を壊している加害者なんだということを知りました。それまでは「自分の未来のために」とか「若者の未来のために」という思いをもって活動をしてきました。それが少し変わり、「自分の責任」というと語弊があるかもしれませんが、先進国に住んでいる人間としてやるべきことをやらないといけないなと思って活動をしています。私にとって気候変動の活動は、ご飯を食べるようなものと同じことなので、とても自然にやっています。

 

MAPAへの不正義と日本の開発事業を止めたい

 

いましている活動について簡単に紹介させていただきますと、2022年11月にエジプトでCOP27が開催されます。そこで私たちFFFからも気候変動対策を求めるためにCOP27に行きたいと考えています。COP27へ行く目的としては、先進国によるMAPAへの不正義を止める、とりわけ日本が進めるマタバリ開発事業を止めたいと強く思っています。マタバリ石炭火力発電事業とは、日本政府と住友商事がバングラデシュで進める石炭火力発電事業です。現地では、この事業を止めるためにFFFバングラデシュの方と直接顔を合わせて、これからの計画を考えていきたいと思っています。

 

駆け足になってしまったのですが、これで私のFFFの活動紹介を終わらせていただきます。

 


 

【民間や若者による活動事例の紹介】
活動事例の紹介②
河石良太郎さん/気候訴訟ジャパン

 

プロフィール)
河石良太郎(かわいし・りょうたろう/気候訴訟ジャパン)
普段は会社員をしながら、市民団体・気候訴訟ジャパンに所属し、司法から気候変動対策を推し進める活動を行なう。団体でパブリックコメントや人権救済申立への参加呼びかけ、グリーンウォッシュなどの問題の拡散などを主導しながら、日本での気候訴訟の可能性を模索する。

 

気候訴訟ジャパンがみるグリーンウォッシュ政策

 

まず団体の紹介ですが、気候訴訟ジャパンは市民団体、任意団体です。法人格をもって活動しているわけではなく、市民のメンバーが集まって日々活動している団体です[p.2]。活動の軸として、司法の場から日本の気候変動対策を推し進めることを目指す団体です。結成は昨年7月で、1年少し経ったくらいになります。いま13名くらいのコアメンバーで日々活動していて、若い人は10代の中学生から、20代が多くて、30代とその上のベテランの方々まで応援していただきながら活動しています。メンバーは全国に散らばっていて、オンラインミーティングなどを中心にSNS上での情報発信をメインに活動しています。私自身は、その一員として活動している河石と申します。千葉の田舎のほうに住んでいまして、IT企業に勤めつつ、仕事が終わった時間などにこういった活動をしています[p.3]。

 

世界では1500をこえる気候訴訟がある

 

「気候訴訟」というのは、明日香先生の話にも出てきたワードですが、2021年5月のオランダでの訴訟の結果をきっかけに集まったメンバーで、私たちの活動は始まりました。オランダの地方裁判所が気候危機は人権侵害であることを認めて、大手石油会社のロイヤル・ダッチ・シェルに2030年末までの削減値をもっと上げるように命じた訴訟です[p.5]。以降、大企業の気候変動対策を推し進めることを勝ち取った事例になっています。

 

これは私たちの解釈なのですが、政府や企業の気候変動対策が不十分であることを説明して、より踏み込んだ対策を求めるような訴訟のことを「気候訴訟」ととらえ、そこに軸を置いています[p.6~7]。世界では1500を超える気候訴訟がこれまでに行なわれています。近年では先ほどのような画期的な判決も出てきました。

 

アメリカ・ニューヨーク市は気候訴訟をいくつもやっています[p.8]。少し先ほどの明日香先生のお話とも重なりますが、ここに挙げた3例目の「グリーンウォッシュ訴訟」が先ほど出てきたもので、石油大手3社(エクソンモービル、BP、シェル)とアメリカの石油協会が広告などを通じて消費者を騙すグリーンウォッシュを行ったとしてニューヨーク市が提訴して、いま調停中の訴訟になります。

 

日本でも気候訴訟は行なわれていて、私たちが絡んでいる訴訟はないのですが、こういった形[p.9]で取り組みがなされています。オランダやドイツの事例を見ると、司法という場を使って得られる結果に希望を持てると信じていますし、日本でもそういった画期的な判決を勝ち取って、よりしっかりとした気候変動対策案を国に示してもらいたいと思って活動をしています。ただ、だからといって、すぐに裁判を起こせて勝訴を得られるといった状況ではないので、さまざまな活動をしながら準備をしているような状況です。

 

 

キャズム理論とグリーンウォッシュ

 

グリーンウォッシュについて、すごく感覚的な話をさせていただこうと思います。私たちも2022年の冬から春にかけて、グリーンウォッシュ問題を取り扱って発信してきました[p.12]。ニューヨーク市の訴訟のこともあって、これを題材に話してみようというのがきっかけでした。SNSでグリーンウォッシュとはどういったことなのかを発信したり、実際にCMを見ながら「これってどうなんだろう?」とディスカッションする会を開催したりしました。

 

市民団体として、より多くの人に気候変動に対して関心を持ってほしいし、もっと国に訴えかけていきたいと思っているのですが、そういった活動をするなかでの感覚値として、マーケティングなどでよく使われる「キャズム理論」が、いまから話す内容に少し近いかなと思っています。この図は、商品を出したときに、その商品が市場に広がっていくまでの流れを表していて、かなり最初のほうに食いつきのいい先進的な方々がいるのですが、そこからメインストリームになるまでの間には深い溝(キャズム)があることを表しています。「この溝を超えていきましょう」というような理論です[p.13~15]。

 

図:キャズム理論模式図。新商品が市場に定着するためには、初期市場での需要層と一般的な購買者の間にあるキャズム(溝)を越えなければならない(出典:東京大学IPC

 

つまり、いまの日本においては、気候危機問題に対して強い関心を持ってシステムチェンジを求めているのは、この図でいうと初期市場に入ってくる「イノベーター」、「アーリーアダプター」と言われる人たちしかいなのではないでしょうか。まだまだ少数派である状況で、キャズムを超えられていないというのが私の感じているところです。グリーンウォッシュにからめて話すと、いまいろいろなCMからグリーンウォッシュを感じることが多いのですが、彼らがやっていることは、この溝を超えさせないために、「この状態でいい」というメッセージを発信しているのと同じではないかと感じています。

 

政府と大企業が一丸となって行なっている

 

「ゼロエミッション火力を実現する」とか「サステナブルな〇〇」といった、すごくいい雰囲気のBGMと映像で玉虫色に包んだCMがたくさんあります[p.16]。気候変動というワードは頻繁に出ているし、それによる被害がニュースになってきていても、こうしたCMを見て多くの人が「企業が動いているんだよね」と認知してしまい、あまり関心を寄せないし静観してしまうことにつながっているのではないかと思います。

 

これに違和感を持たないのは、やはり政府の発信によるところがすごく大きいと思っています。「省エネが大事」と言いながらも省エネが進められていないし、そういった政策が全然ない。それでも、「日本はやれているんだよ」みたいな発信が政府からもあり、多くの人がなかなか興味を持てないのではないかと思います[p.17]。ちょっと過激なことを言うと、グリーンウォッシュ広告というのは政府と大企業が一丸となってやっていることじゃないかと最近は思っています。

 

キャズムが生まれるのは「価値観の違い」が大きいと言われているのですが、政府や大手企業は、言ってしまえば「短期的な経済合理性」を求めているのだと思います。実際には再エネのほうが安いので、そうしないことが本当に合理的なのかどうかは怪しいのですが……。一方で、私たちがすごく大事にしているのは「長期的な視点での社会的責任」で、その価値観に基づいて活動している人が多いようです[p.18~20]。

 

最近では、岸田首相は気候危機は重大な問題であり取り組むと言っているのですが、これをどういう問題だととらえているのかについては、私はあまり聞いたことがありません[p.21]。経済が強い日本、経済ばかりを推し進める日本――これは価値観の違いではないかなと思っています。

 

CO2排出は多くの命を奪う加害行為

 

私が裁判を傍聴しているなかで、弁護士の先生方がCO2排出をどう整理しているかというところで「加害行為」というワードが出てきたのですが、私にはこの考え方がすごくしっくり来ました[p.22]。気候変動による災害や人の活動による影響を科学が示しているうえで、なお過剰な温室効果ガスを排出するというのは、多くの人や生物の命を奪う加害行為なんだ、と。そう言われて、本当に自分事として「もっと気をつけよう」「意識しよう」という気持ちが芽生えた記憶があります。ですから、「グリーンウォッシュに対して」というよりは、私たちは、「気候変動は子ども、家族、友人など、自身のすぐ近くに迫ってきている問題だと知ってもらう」「政策に対して、パブコメで『1.5℃目標に整合していますか?』『私たちの生活は守られますか?』といった声を多く届けられるよう呼びかけていきたい」「グリーンウォッシュ広告など、少しでも感じた違和感に取れる行動を広めていきたい」といった形で、市民の意識を変えていきたいと思っています[p.23]。

 

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