公正で持続可能な社会づくりをエンパワーする

empowering actions for just and sustainable society

 


 

【身近に潜むグリーンウォッシュの事例研究・ディスカッション】

 

「知らない人が見たら感動すると思う」

 

吉田:ここから45分くらいディスカッションの時間があるのですが、実際にCMを見てみようと思います。最初はJERAのCMからです。JERAというのは東京電力と中部電力の合弁会社です。

 

 

【映像流れる:JERA ゼロエミッション2050「石炭火力とアンモニア」篇】
(石炭火力発電にアンモニアを混焼することでCO2量を減らし、将来的にはアンモニアのみで発電可能になるという計画の説明)。

 

吉田:いまのCMは桃井さんからの推薦でした。角谷さん、どうでしたか? ゼロエミッションを頑張っているように見えるでしょうか?

 

角谷:逆に感動しました。ここまでできるんだなって。私もそんなに詳しくなくて、ここに勉強しようと思って来たのですが、何も知らない人が見たら「わあ、アンモニア混焼最高!」ってきっと思うんだろうな、と思って見ていました(笑)。頑張っているように見えました。あれだけ見たら、とっても感動しました。

 

吉田:ありがとうございます。桃井さんから補足はありますか?

 

CMで描かれるイメージと現実のギャップ

 

桃井:そうですね。突っ込みどころ満載のビデオで、皆さんが見てどう感じるかを知りたくて今日流していただきました。

 

ひとつは、石炭火力がまだ世界全体の発電方式として約4割も使われているという説明がありました。現時点ではそうなのかもしれませんが、いま先進国の多くの国を中心に「2030年までの脱石炭を目指す」ということがどんどん達成されていて、「これからは石炭の時代ではないんだよ」というのがいまの状況だと思います。しかし、このCMでは世界でも「石炭はまだまだ主力なんだ」という印象を与えています。

 

アンモニアに関しては「(石炭との)燃焼の相性が良い」とCMでは書かかれていて、いますぐこれが実用化して使っていけるようにも見えるのですが、現時点で混ぜられているのは0.02%程度で、日本では実証的にたった1基で行なわれているだけなんですよね。それなのに、何かここに向けて進んでいるかのように印象づけているのも、現実とかなりギャップがあると思います。

 

それから「多額の費用がかからない」と言っていますが、確実に石炭火力よりも大きなお金がかかります。お金がかからないなら政府が支援する必要がまったくないのですが、おんぶに抱っこで政府支援を求めて「ここにお金がかかるから」と政府にどんどん要求しているのがJERAです。それなのに、なぜ市民に向けては「お金がかかりません」と言っているのか意味不明です。

 

アンモニアはいままで農業用途として製造されていたのですが、それとは違うレベルで大量生産に向けてこれから体制を作らなくてはいけません。そのための船舶の開発、製造段階での開発など、とにかくいろいろなところに調達のためのお金をかけなくてはいけなくて、その体制の整備のために、いま政府が何兆円もお金を出そうとしています。ですから、JERA自身はほとんどお金を出さずに進めようとしていても、社会的なコストはものすごくかかっている事業になっています。そういう体制が完成したとしても、今度はアンモニア燃料によって生産された電気は石炭由来よりも高くなりますので、私たちが支払わなくてはいけない電気の料金がアップしてしまうことにもなります。

 

CMが隠しているアンモニア燃料の問題点

 

桃井:最後の部分で、「2030年までに混焼率20%」、「最終的には専焼を目指す」と言っていて、CMの図のイメージだと、だんだん混焼の割合を増やしていき最終的には同じ炉でアンモニアだけを燃やすことができるような印象もあります。しかし、現在のアンモニア専焼炉の開発ではガス用ボイラーみたいなものを使っているので、その形式の炉とはシステムをまったく変えないとアンモニア専焼はできません。現存する石炭火力の炉はそのまま転用できず、結局はまた別のシステムに切り替えなければならないのです。現状は既存の炉を使い続けるための延命策なのですが、CMの図だと将来につながっていくような描き方がされているので、やはり現実とはまったく違う姿だと思います。

 

吉田:最後のほうに、大量のアンモニアを海外から持ってこなければいけないというところで船の画像が出ていました。その下に「※船はイメージです」と書かれていましたが、つまり、アンモニアを運搬できる船はまだ技術的に存在していないんですよね。アンモニアは腐食性があり金属とかを溶かしてしまうので、普通のタンカーでは運べないらしいですよね。

 

桃井:そうなんです。私はもともとフロンの問題をやっていました。フロンガスの代わりに自然冷媒でアンモニアを使えるのですが、実は、結局高価なので全然進まなかったんです。高くなってしまう理由が、やはり腐食性がすごく強いことへの構造上の対応です。いままでのような設備が使えず、一般の人たちが簡単に利用できるものではありませんでした。昔の冷凍機器にはアンモニアを使っていたので、それを経験している時代の人たちは、アンモニアがどれだけ臭いかとか、どれだけ毒性があるかわかっているので、あまり使いたがりません。すごい素晴らしいもののように描かれていますが、いろいろな意味で問題があると思っています。

 

吉田:簡単にできそうに書いていますが、半分以上がまだ実現していないですし、非常に問題があるということですよね。

 

桃井:そうだと思います。

 

地産地消・分散型の再エネのほうが安全で安い

 

吉田:星川さん、いかがですか?

 

星川:ぱっと見、本当に突っ込みどころが満載です。とくに最後のところで、そんなに世界中から集めてこなければいけないなら、「どこでどうやって作って、CO2は出ないのか?」 ということ。そんなにみんなが世界中で求めたら、また資源争奪戦になるに決まっていて、遠くから特殊な船で持ってくるなんて、また同じことをやっているなというのが第一印象ですよね。それよりも、地産地消・分散型の再エネで社会づくりを進めていくほうが何百倍、何千倍か確実で、安全で、安いというのは確信できますけれども、そこをばっちり隠したCMですよね。

 

桃井:いまコメントで「水素も同じでは?」というのがきていますが、もともとアンモニアは水素のキャリア(気体を化合物として液化し効率的に貯蔵運搬する手段)として検討されていたのです。つまり水素はガスとしてはボリュームが大きくて、なかなか容易に運べないということもあるし、超低温にしなければ液化しないですよね。それをいったん水素と窒素と合わせてアンモニアに変えると少し運びやすくなるということで、水素のキャリアとして考えられたのがアンモニアでした。

 

しかし、運んできたアンモニアを水素に戻す段階でエネルギーや手間がかかることもあって、それならそのまま燃やせるのではないかとアンモニアの燃料化が進められたという経緯が当初ありました。それをJERAが採用したことで、いまは政府がこれを全面的に進めています。ですから、本当にここ2年くらいで、JERAがやると言った途端に日本中が動き出したということがあります。

 

グリーンウォッシュの7つの罪

 

吉田:河石さんは、こうしたCMでPRしていくことの問題を気候訴訟ジャパンとして取り上げているそうですが、そのあたりをお話しいただけますか?

 

河石:先ほど言った気候訴訟ジャパンでやっていたキャンペーンは、こんな感じでやっています。実際にCMをいくつか見て、みんなで言い合った感想から、「どれが罪深いか」というランキングをつけて投稿しています。グリーンウォッシュを見ていくときに、やはり桃井さんとかは専門的で裏が見えているのですが、なかなか私や角谷さんとかだと難しいかなとも思いながら、いまお話を聞いていました。

 

図:「気候訴訟ジャパン」によるグリーンウォッシュのランキング投稿から

 

明日香先生が言っていたようなグリーンウォッシュ広告の指標とかが設けられると、もう少し疑問を呈しやすくなるのかなと思っていて、これは『フォーブス』に載っていたものですが、カナダのグリーンマーケティング・エージェンシーのTerrachoiceが、こんなことをやっているとグリーンウォッシュじゃないか、というものを「グリーンウォッシュの7つの罪」としてまとめています。これを見ると、「隠れたトレードオフ」や「根拠を示さない」など、さっき話されたような、コストが高くなったり開発が必要になったりするのにそれを言っていないといったことも全部問題だと書かれています。あれもこれも文句をつけるというのではないのですが、疑問を持ったらどんどん言っていいんじゃないかと感じています。

 

グリーンウォッシュに声をあげられる仕組み

 

河石:ニューヨーク市が提訴した話がありましたが、これは、その訴状に機械翻訳をかけたものを見ると、彼らは根拠もしっかり書いています。やたら「グリーン」とか「クリーン」とか言っているけれど、そのお金の使いどころを見ていると、わずか1%に満たないようなグリーンな施策をひたすら打ち出しているだけだという背景をつかんだうえで、たとえばエクソンモービルなどがインスタグラムに投稿したものでは、「私たちは過去40年でもっともCO2を回収した会社だ」というようなことを言っているけれども、その何百倍ものCO2を排出するきっかけを作っている企業であることを言っていないのは、やっぱりダメだと訴状に書いてあります。こうしたことが50項目くらい訴状には書かれています。

 

図:ニューヨーク市の訴訟で示されたエネルギー企業における再生可能エネルギーの割合を示す円グラフ(出典:ニューヨーク市2021/4/22訴状「The City of New York against Exxon Mobil Corp., ExxonMobil Oil Corporation, Royal Dutch Shell plc, Shell Oil Company, BP p.l.c., BP America Inc., and American Petroleum Institute」)

 

もっと積極的に市民が見る目をもち、疑問を持ったらそれを発信してJAROなどに報告していくようなことを、もう少し市民側で習慣づけられないかというのは、私たちもやりたいと思ってなかなかできていないことのですが、呼びかけていきたいと思っています。そうしたときに、350.orgがまとめている「COOL BANK(クールバンク)」のように、どの会社が石炭火力に投資しているのかがわかれば、「その会社がグリーンなCMをやっているのは、ちょっとどうなんだろう」と言いやすくなります。そういったところでも、もっとグリーンウォッシュCMに対してうまく声を上げられるような取り組みをしたいと思っているところです。

 

吉田:JAROというのは「JAROってなんじゃろ?」という広告の審査機構ですね、そこにはフォームがあって広告・表示への意見や苦情のメールが出せます。河石さんは出したことがありますか?

 

河石:まだ出していないのですが、「出したよ」というのをやっていきたいと思っています。

 

「石油でなければできないこと」

 

吉田:次に、河石さんたちの気候訴訟ジャパンがチョイスした、もう一つのグリーンウォッシュCMを見ていきたいと思います。コスモ石油ですね。

 

 

【映像流れる:コスモ石油「新しい風篇」
バイオリンの発表会に向かう少女と、風力発電を支える技術者、ガソリンスタンドのクルーをカットインでつなぎ、「石油でなければできないことがある」というメッセージを伝えるイメージCM。

 

吉田:河石さん、なぜこれをノミネートしたのでしょうか?

 

河石:先ほどの角谷さんの感想もそうですけども、いい雰囲気の音楽と、ちょっといい映像で「石油でなければできないことがある」と言われたら、なんとなくぼやっと普通にテレビを見ているだけだと「ああ、そうなんだ」と刷り込みされちゃうと思うんです。結局、内容は何も言っていなくて。こういった玉虫色のCMもグリーンウォッシュとして「やっぱりダメだよ」と言っていけるようになりたいなということで、はっきりわからないものだけれど、「これもよくないんじゃないか」というラインをチョイスしてみました。

 

星川:とにかく「石油でなければできないことがある」というのは大嘘ですよね。そんなものはないでしょう、たぶん。僕自身の生活を例に出して申し訳ないんだけど、もう石油は一滴も使っていないです。10年くらい電気自動車ですし、屋久島は99.5%くらいが水力発電で、水力なりのよくない点はあるけれども、その電気を使っています。割と最近まで残ったのは草刈り機とチェーンソーだったのですが、いまはそれもバッテリー式で実用に耐えるものができて、ごくごく最近ですが、最後のチェーンソーをバッテリー式に切り替えてオール・オイルフリーの人生になりました。ただ、調理やシャワーの燃料はまだガスなので、そこは電気にするのかどうか……。リスク分散はしておいたほうがいいかなとも思っているのですが。そういうことで「石油でなければできないことって何ですか?」と聞きたいですね。もちろん社会全体がそういうふうになっていくのは時間がかかるでしょうけれども、そこにガーンとブロックをする必要はないでしょう、ということです。

 

吉田:世界で見ても、シェルとかエクソンモービルといったところは再エネも少しはやっているけれども、もともとの石油事業を当然続けながら……ということですよね。

 

ファクトチェックをしていく必要性

 

吉田:チャットに「累進の広告税をとって、そのお金で反広告ができるように、反広告制度を設けるべきである」というコメントをいただいていますが、星川さんどうですか?

 

星川:それに関して直接の答えになるかわかりませんが、このイベントの開会のあいさつを考えていて思ったのは、いまジャーナリズム全体で「ファクトチェック」という新しい取り組みのインフラみたいなのが世界的に台頭してきているんですね。トランプ時代のフェイクニュース満載のものや、ウクライナ戦争でのロシアのフェイクなどいろいろあって、abtはジャーナリズムの問題に関する「ジャーナリズムXアワード」というプロジェクトにも関わっていますが、そうしたファクトチェックの一種が必要だと思いますね。

 

気候訴訟ジャパンの河石さんはご存じだと思うけど、ジャーナリズムの手法やノウハウなどを使って裏づけをきちんとして「こうだから嘘です」「こうだから誤魔化しています」ということをやらないといけないのですが、なかなか素人ではそこまではできないので、弁護士やジャーナリスト、研究者、NGOなどが関わって環境面でのファクトチェックをして、そのなかにグリーンウォッシュも入ってくるような感じが、もしかしたらいいのかなと思います。

 

吉田:広告企業だけではなく、政府の審議会のなかの議論とかでも、産業界に近いような委員の方が言っていることは、私たちが見ているものやデータとかとそもそも違ったりしてきますよね。

 

いま追加のコメントで、「反広告税はその財源のことだ」と書かれています。

 

星川:反広告税を集めようとすると、その税制を変えるのが大仕事でしょうね。やはり民間の力を合わせて、そういう事実を積み上げていって、「社会のインフラとして絶対こういうのが必要だよね」というコンセンサスを作っていくとか、そのスキルを高めていくこと、それと税の議論は同時進行じゃないでしょうか。それができると一番いいと思います。

 

吉田:ファクトチェックは結構大変な作業ですし、グリーンウォッシュのチェックは誰がどうやればいいのかといった議論は、河石さんたちはしていますか?

 

河石:最近だと太陽光パネルのことでも賛否あって、情報がいろいろ混じっているなと思っています。やはりファクトチェックされた情報がウェブで見つからないというのはすごく問題というか、やりづらいです。ファクトがないと声を上げづらいというのもありますが、パブコメなどを出すようなときに「ちゃんと情報を知っていないと声を上げちゃいけない」という風潮もある。私たち市民の態度としては、もっとカジュアルに「危惧しているからどうにかしてほしい」という声をたくさん届けて、JAROが審査してくれるのかわからないですが、そういったところでちゃんと取り組んでもらうようなことができるとよいのかなと思っています。ですから、疑問や「この人たちはやっぱり石油を売ろうとしているような広告だ」と感じたら、それだけでも声を上げてもいいんだよ、と……。ファクトチェックのところはできていないので申し訳ないのですが、NGOの方々とかにはすごくいろいろな情報を出してもらっているので、そこにさらに頼むのも頼みづらいなと思います。

 

日本政府のエネルギー戦略と原子力

 

吉田:いま日本政府は、GXとかクリーンエネルギー戦略といって「2050年カーボンニュートラル」――それも不十分だという話が明日香さんからありましたが――を目指すために、ゼロエミッション火力と原子力を進めようとしているわけです。原子力がゼロエミッションと言われることについては、角谷さんや河石さんはどう思いますか?

 

河石:やっぱり何が問題かというと、CO2をゼロにするだけでなくて、世代間の不平等とかがあっての1.5℃目標だと思うので、そう考えたときに「それは違うよね」というか。問題をすごく減らして決断を迫ってくるのはあまり好きではない。やっぱり私たちは、それはよくないかなと思っています。

 

角谷:グレタさんの発言などにもありましたが、私たち日本のFFFでは、原子力発電所で働く方のことを考えると、やっぱり原子力は気候不正義だということを共通認識としているので、原子力発電には反対しています。

 

吉田:原子力については日本の国民は半数以上が反対だと原発事故以降言われてきたのですが、ただ最近では若い世代で世論調査をすると容認の割合が少し増えてきているということもあったので聞いてみました。

 

星川さんは長年、日本の政策をご覧になってきて、いまのゼロエミッション、GXをどうご覧になりますか?

 

星川:各論ではそんなに詳しくないこともあるので全部言い切ってしまうのは危険かもしれないけれど、全体で見て、日本政府の政治家とか業界の人たちが「なんとかムラ」をすぐ作ってしまって、あるひとつの決めたことしか受けつけないみたいな、そういう日本社会のクセみたいなものをずっと見続けてきました。菅政権のときから、「とにかく世界が何となくそっちに向かっているから日本も負けないで行ってみなきゃいけないよね」というのでバタバタと作文して、ポンチ絵をつけて「気合いだ!」というような、「言えばあとはなんとかなる」「国民もそんな気がするんじゃないか」という内実が伴わないことがものすごく多いと思っています。気候変動もそうだし、原発が必要だというのもそうだし。少し中身を知っていくと違うとわかるんだけど、わかりにくいように言う、表す。そこに騙されないようにしないといけないなと思いますね。

 

そうやって自分たちも騙し、国民も騙しということをずっと続けてきて、それは前の戦争以来ですけども、言葉でごまかして実態を覆い隠して、最後は惨敗しちゃったみたいなことに気候変動でもなりかねない。すごく残念なのは、そうやって騙していると子どもたちが馬鹿になっちゃうんですよね。要するに「ああ、そういうもんなんだ、社会って、世の中って、考えなくていいんだ」と。ちゃんとロジックを尽くして、情報を揃えて、ベストな選択肢を選んでいくという丁寧なことができない社会は、とても残念な社会だと思いますね。人間がみんな馬鹿になってしまう。それをやっているのがつらいです。僕らも長年それをなんとかしようとしているけれど、なかなか変えられなくて皆さんに申し訳ないです。

 

吉田:チャットで一つコメントを頂いていまして、「アメリカのパイプラインも広告ではアメリカ全土にエネルギーを届けるように美しい映像コンテンツで制作しておきながら、その付近の住民を無視し、エネルギー自体も輸出しているというドキュメンタリーを思い出しました。それもグリーンウォッシュに当たりますか?」はい。まさに見てきたCMのような感じかなと思います。先ほど河石さんが映してくれた「負の側面を見せない、隠す」といったところかと思います。

 

グリーンウォッシュに対抗するアクション

 

吉田:皆さんそれぞれに、グリーンウォッシュだと思う日本の政策や企業の施策になんとか対抗するアクションをしていると思うので、最後にグリーンウォッシュに対抗する活動について「いまこんなことをやっています」と紹介していただこうと思います。

 

桃井:グリーンウォッシュに対抗するアクションはなかなかできていないのですが、やはり正していく作業を丁寧にしていく必要があるんだろうなと思っています。アンモニアや水素の燃料化に関しては、CM以外にも新聞の記事やテレビのニュースでも、ありとあらゆるところで「いいものだ」と認識されているようで、みんなが本当に信じてしまっている状況になりつつあり問題だと思っています。

 

前回の国会のときに議員の皆さまにもお話をしたら「そうなんですか、初めて聞きました」みたいな反応で、アンモニア発電をいいものだと信じ込んでいる議員が圧倒的に多い状況でした。やはり国会議員から子どもたちまで、みんなが洗脳されちゃっているんですよね。それを一つひとつ「そうじゃないんだ、こんな作り方で、こんなに化石燃料を使ってたくさんのCO2を出しているものを、これからまた進めようとしているんですよ」と丁寧に説明していくのは私たちの役割だと思います。ただ、自分たちだけで発信しているのでは全然足りないので、それを広げるメディアにきちんとその役割を担ってもらうよう働きかけることが必要なのかなと思っています。

 

このままだと日本は世界から「置いてけぼり」

 

桃井:それから、いまの政策の作られ方が、本当に星川さんがおっしゃった通りで、また「GXムラ」を作ってしまっている感じですよね。GXリーグのサイトを見ると出てくる、何を目指すのかなどが書いてあるところにヨーロッパの事例が出ています。ヨーロッパではいろいろなセクターの人たち、NGOとか企業の人とかが参加して政策が作られ、官が主導するだけではない形がいま進んでいます、と書いてあるんですよ。「だから、日本では企業と政府がやっていきます」と。なんかちょっと方向づけが……(笑)。「だから、市民が参加して政策を作るプロセスを立ち上げましょう」ならわかるのですが、そうではなくて自分たちのムラを日本版という形に置き換えて、官民での癒着の構造をオープンにして作っている感じなんですよね。本当に構造的には何も変えず、間違えた形で欧州に対峙しようとし、いまだにいろいろなところに溢れ出ているという感じです。

 

最初に言ったように「このままいくと日本は負け組になってしまうよ」という状況で、まったく的外れな方向に進んでしまっています。いまアンモニア燃料をこんな一生懸命やっているのは日本くらいで、先ほど星川さんが「世界で奪い合いになる」と仰っていましたが、たぶん奪い合いにもならない。日本が馬鹿みたいにお金だけかけても結局使えなくて、ほかの国はどんどん再エネの方向に進んでいるという、単なる置いてけぼりの結果になるのではないかと思っています。これだけ大借金している国で、本当に国民の全財産がそこに使われるのではないかという不吉な予感しかない状況ですので、そこを本当に立て直して、市民参加のもとにできる政策を私たちは目指していくことが必要なのかなと思っています。

 

吉田:ありがとうございます。気候ネットワークやFoEなどでは今後、国会議員の方々と水素・アンモニアについて議論する会を予定しています。先ほど桃井さんが言ったように、まだあまり関心が寄せられていない脱炭素火力の問題点について、国会議員の方々が早く気づき、危機感を共有して動いてもらわないといけないということです。それでは、河石さんいかがでしょうか?

 

「私たちの生活が守られるのか」と声を上げよう

 

河石:気候訴訟ジャパンがやりたいと言ってできていないのは、もう少しみんなが広告を見る目を養っていくためにディスカッションするとか、それを適切なところに報告していくといったことです。スケジュールは未定ですが、やりたいとずっと思っているので、どこかで形にしたいなと思っています。それから、先ほどから言っているような「知らなければ声を発してはいけない」という点も変えていきたいです。ちゃんとした情報があったうえで議論するのはすごくいいのですが、偏った情報で政策を決めて危険なほうに進もうとしている政府に対して、もっと市民として「助けてくれ」「私たちの生活が守られるのか」と訴える声を大きくして、政策に取り扱ってもらえるような民意を作っていくことは、やっていきたいと思っています。

 

11月から公開しているキャンペーン(人権救済アクション)がありまして、こういった気候変動に脅かされる私たちの生活を守ってほしいし、守る義務が国にはあるんだということを専門家の方にお墨付きをもらって、そして意見を提出するというプロセスを踏みたいと思っています。弁護士会を通じて人権救済申立てみたいなところで民意を形作って提出することを企画しています。直近では、そういった活動がありますので、ぜひ皆さんにもご協力いただければと思っています。

 

若者もグリーンウォッシュに騙されない

 

吉田:角谷さんは、いかがでしょうか?

 

角谷:さっき若者が馬鹿になるという話もあったのですが、FFFは若者の運動ということもあり、私のようにグリーンウォッシュという言葉さえも知らずに運動に入ってきた方もいます。そのため、まず「グリーンウォッシュというものがあるんだ」ということを、もっといろんな人に知ってもらい世論喚起していきたいと思いました。世界気候アクションのディマンドにするほか、若者も気づいているし騙されない、ということをもっと見せていきたいと思います。

 

それと、FFFとしてではないのですが、先ほど河石さんが「おかしいと思ったらすぐメールを送る」というようなこと仰っていたのを聞いて、いままで私は「あ、変かも?」と思っても、それ以上調べることができないと「じゃあ、これには触らないでおこう」と通り過ぎていたのですが、ちょっと変かもと思っただけも言えるんだと思いました。ですから、今度からもっと積極的に声を上げていきたいと思います。

 

大手電力会社が力を持つ構造を変えたい

 

吉田:私のほうでは、誤った気候変動対策、水素・アンモニアといったところに声を上げていくアクションを、先ほどお話した院内集会などを含めてやっています。それから原子力に対しても、この岸田首相のGXを口実にした原子力推進について、国民の声を聞いていないということを伝えていきたいと考えています。FoEでも、いろいろな署名や政府交渉などを企画しています。

 

先ほど私の発表のなかでは再エネの選び方をお伝えしたのですが、大手電力が圧倒的な力をもち、原発や化石燃料を使い続け、その構造を維持するという方向をなんとか変えていきたいと思っています。そのためには、市民の選択や各地で自治体とか地域が主体になって再エネを作っていくこと、そういう自治体や地域、市民のグループの運動が非常に重要だと思っていますので、引き続きボトムアップで変化を進めていくことと併せてやっていきたいと思っています。

 

「ムラ」に取り込まれないジャーナリストを増やす

 

星川:簡単にですが、この対話への感想で、やはり政府は税金を使って明後日(あさって)の方向へ連れていこうとするし、企業は企業で儲けているお金を大量に使って御用学者を動員してグリーンウォッシュの情報を大々的に発信するのがうまいというか、すごく力がありますよね。それに対抗するためには、市民側が個々に発信することももちろん大切だし、僕は最近、FoEや気候ネットワークのセミナーによく参加するのですが、すごくタイムリーで非常に有効な勉強会をやってくださっているんですよね。みんなで力を合わせて、そういう発信を届けていく努力をする必要があると思っています。

 

それから、先ほどメディア、ジャーナリズムの話をしましたけど、日本のいちばん大きな問題のひとつは、メディアというかジャーナリズムが、多くの場合「ムラ」のほうに取り込まれていることです。ちゃんと独立したジャーナリストとして仕事をしてもらう人を増やしていかないといけない。本当にいま一握りなのが課題なので、市民側ではそういうところにも力を使っていきましょう。

 


 

【総括】

 

美濃部:ゲストの皆さん、参加者の皆さん、ディスカッションにご協力いただきまして、ありがとうございました。最後に、abt理事の李 妍焱(り・やんやん)より感想をコメントさせていただきます。

 

希望を求める気持ちとグリーンウォッシュ

 

李(abt理事):今日は本当にすごく充実した内容で、まさにabtが求めていたような対話ができたのではないかと思います。abtは中間支援組織として、どんな未来を私たちは描いていくことができるのだろうかという思いで、この「Future Dialogue」シリーズを企画していますが、未来へのビジョンを描く、そしていまの足元をきちんと見定めるという意味では、今回の内容も大変示唆的で、まさにこれから行動すべき方向を示すものだったのではないかと思います。

 

今日は、正直言いまして知らないことばかりだったんですね。私自身は1994年に来日して、その後は社会学の分野で市民社会の研究をして、中国と日本の市民社会の比較などをしてきました。気候変動に関しても日ごろから関心があったのですが、最近あまりにもがっかりするような事実が多すぎて、心のどこかに希望を求めたい、いいニュースを求めたい、そうであってほしいという願いがあります。「心も満タンに」という石油会社のCMも日本に来てからずっと見続けてきたので、うちのなかで口ずさむほどなじみがあるのですけれども、そういう石油会社やエネルギーシフトをやっていこうとする電力会社の姿勢が本物であってほしいと願うところがあるために、これはおそらく私一人ではないと思いますが、心理として都合のいい、明るい方向に向かいたいというのもあって、グリーンウォッシュが日本社会のなかでも横行している状況があるのではないかと思いました。

 

事実ではなく、感情で判断する国民性

 

ファクトチェックの話は星川さんからありましたが、日本は長い間ずっとメディアリテラシーの向上を進めるといいながらも進まなくて、世界のなかでもおそらく最もメディアの報道や新聞記事を信用してしまう国民の一つだと思っています。一方で、日本は非常に不満を口にする人が多い社会でもあり、クレーマーがすごく多いわけですね。そのクレーマーというのは、自分の感覚や感情にもとづいて不快なときにクレームをつけます。つまり、批判的な視点に基づいて合理性や事実性に対する判断をメディアに向けるよりも、快不快や安心したいという自分の感情で判断する思考パターンや考え方が長年染みついているので、なかなか難しいなと思いました。

 

しかし、今日非常に希望を感じたのは、CMの映像を流してみんなで討論すると、ものすごくはっきりと伝わってきて、明確にわかる部分があったということです。今後、市民・民意をどう作るのか、という話があったのですが、こうした手法をさまざまな市民側の運動に取り入れて、それこそYouTubeなどで専門チャンネルでグリーンウォッシュの具体的な事例を見ながらみんなで討論するような動画をアップしていくとか、あるいはグリーンウォッシュに対する訴訟のことも今日恥ずかしながら初めて知ったのですが、もっとSNSなども活用しながら広く知ってもらう努力をしていく余地があります。

 

風穴を開ける方向性が見えてきた

 

政治のブレーンが何を考えているのかわからないような無能ぶりが目立って、苛立つことが多い。それでも「なんとかなってほしい」「このポストにいる人間はちゃんとやってくれるだろう」という甘い期待から抜け出せない大衆の我々がいるわけですが、そのなかで少しずつそこに風穴を開けていく方向性が今日見えたのではないかと思います。大変充実した時間であったと思います。本当にありがとうございました。

 

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