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 【講演2】猿田佐世/新外交イニシアティブ(ND)代表・弁護士(日本・米NY州)
「日米の高速炉開発協力―再処理と核燃料サイクルの延命策―」[PDF]

プロフィール)
早稲田大学法学部卒業後、タンザニア難民キャンプでのNGO活動などを経て、2002年日本にて弁護士登録、国際人権問題等の弁護士業務を行なう。2008年コロンビア大学ロースクールにて法学修士号取得。2009年米国ニューヨーク州弁護士登録。2012年アメリカン大学国際関係学部にて国際政治・国際紛争解決学修士号取得。大学学部時代からアムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチ等の国際人権団体で活動。ワシントン在住時から現在まで、各外交・政治問題について米議会等で自ら政策提言を行なう他、日本の国会議員や地方公共団体等の訪米行動を実施。米議員・米政府面談設定の他、米シンクタンクでのシンポジウム、米国連邦議会における院内集会等を開催。

「日米協力」の視点から見た核燃料サイクル

私は日米関係を専門にしているため、今日の講演テーマは「日米の高速炉開発協力」として、日米で協力をしながら原発推進政策を取ってきたことについて、「日米関係」に軸足を置きながらお話をさせていただければと思っています。今、松久保さんからもお話があったように、特に、再処理と核燃料サイクルというすでに破綻しているものを、日本は米国との協力によって延命させようとしている。そういう日米の協力関係が進んでいるという問題の指摘をさせていただこうと思っています。

私たち新外交イニシアティブ(ND)は、原発・核燃料サイクル・再処理の問題について10年近く取り組んできましたが、毎回「日米関係」の視点を中心に据えてきました。2018年、日本が使用済み核燃料の再処理を行ないプルトニウムを取り出すことを可能にしている日米間の条約である「日米原子力協定」が30年の満期を迎えました。満期を迎えるその直前、その協定が自動更新されるのではないかという時に、日本の再処理・核燃料サイクルをこのままただ続けさせていいのか、問題があるのではないかということを訴え、協力を求めに、松久保さんとも一緒にアメリカに行きました。

今、スライドでお見せしている写真[p.1]はアメリカ議会の議場ですが、これは、ここで政府関係者や議会関係者を招いて講演会、シンポジウムを開いた時の写真です。NDは、この写真にあるように、アメリカの議員さんや専門家と協力し合って、「核兵器の材料になるようなものを日本が蓄積し続けるのは良くないのではないか」という視点から米議会で質問をしてもらうよう働きかけたり、同様の懸念を有するアメリカ国務省の考えを日本に伝えるよう求めたり、そういう活動をしてきた団体です。

私はついこの前までワシントンに1ヶ月ほど滞在していました。日米関係を専門にしているのでアメリカには頻繁に足を運ぶ努力をしているつもりなのですが、今日は、今回の米国滞在で経験したことのうち、どのように日本とアメリカが高速炉開発で協力をしながら、日本が日本の核燃料サイクルを延命させようとしているのかに絞ってお話をしようと思います。とはいえ、アメリカの原発と言われても全然どんなふうになっているのかわからない方も多いと思うので、最初に全体像をお話しさせていただきたいと思います。

「クリーンなエネルギー」というアピール

アメリカは世界で最も原子力発電が盛んなところだと、今なお言っていいと思うのですが、全米53ヶ所に93基の原発があります[p.2]。ただ、93基と聞くと、私としては「1割減ったな」という感覚を持ちます。10年ほど前から4年ぐらい前までは、ずっと「アメリカでは原発は斜陽産業」と言っていました。今回、アメリカで原発のことを集中して調査をし、確かに今も斜陽産業ではあるのですが、「再び原発ルネッサンスか?」と言われるような、実際にはあまり将来を保証されてはいないものの表面的な勢いだけはよいという、そんな空気感の変化を感じました。

ただ、原発の基数としては減ったままです。わずかに新設原発の稼働もありましたが、トータルでは減っています。バイデン政権が気候変動対策に力を入れる中で、「原子力もクリーンなエネルギーの選択肢の一つ」と見なして原発産業にかなりの補助金をつけていることもあり、原発産業は「うちは再生可能エネルギーの敵ではないよ。補完する、ともに歩む仲間だよ」ということを売りにしています。

このスライド[p.2]にあるのは、NEI(Nuclear Energy Institute)という、日本の電気事業連合会(電事連)のような団体の資料ですが、右下のグラフに「クリーンエネルギー(Clean Generation)の45.5%が原発によるもの」とあるように、「いかにもクリーンです」みたいなふりをして一生懸命原発を推進しています。同じスライドの右上にある写真は、つい3週間ぐらい前にNEIのワシントンにあるオフィスで説明を聞いてきた時に私が撮ったものです。受付のところに「NEI」とあって、その右奥に「CLEAN」とあるのが見ていただけるかと思います。「クリーンなエネルギー・原発」ということで一生懸命推進をしているのがアメリカの状況です。

停滞した、かつての「原発ルネッサンス」

アメリカで「原子力ルネッサンス」と最初に言われたのは、2000年代前半から中ごろにかけてです。気候変動の文脈も含めて、原発を盛り返していくぞ、という計画がブッシュ政権の時代に持ち上がりました[p.3]。1979年にスリーマイル島原発事故が起きて以降、原発産業が伸びることはなく、原発の新増設などはなくなった状態が約20年続いたところで、一気に約30基の原発建設計画が持ち上がり、「原子力ルネッサンス」と言われて、原発が盛り返すのではないかという時期がありました。

しかし、それはつかの間のことで、その後にリーマンショックがあり、福島の原発事故があり、そして「シェールガス革命」というもっと安いエネルギーがアメリカで簡単に手に入ることがわかって、勢いよく持ち上がった約30基の建設計画のうち、今となっては2基しか残っていません。もっとも、「原子力ルネッサンス」と言われた2000年代の勢いが停滞した最大の理由は、原発の発電コストが、再生可能エネルギーあるいはシェールガスに劣ることだと言われています。

「原発には経済性がない」というアメリカでの見方

この後に申し上げる高速炉についてもそうですが、アメリカで原発について話をしていると、もうコスト、コスト、コスト、という感じで、「コストの話がクリアできない限り、市場には乗らないのだから作っても仕方ない」というトーンで話をする人が圧倒的に多いです。安全性の話もあるのですが、それよりも「経済性がまったくないでしょう」という言い方をされることが圧倒的に多い。そこが日本で原発の話をする時との根本的な違いだと思います。

今年7月にアメリカで数十年ぶりに新しい原発が運転を開始したことが大きなニュースになってはいるのですが、それでも、今までと同じ規模の新規原発がこれから建設される要素は、コストの面からいってもあり得ません。そんな中で、「原発」を生き長らえさせていくためには、新しい小型炉・革新炉と言われるもので希望をつないでいくしかないのが、今の業界の状況です。

この「革新炉」には、いろいろなスタイルのものがあります[p.4]。例えばスライドの右下にあるイラストは、ニュースケール社のSMR(Small module reactor=小型モジュール炉。第3.5世代原発・軽水炉の小型版)と言われる小さな原発です。今回、ニュースケール社とも面談の機会を持ちましたが、その面談は「あなたも買いなさい」という売り込みのレクチャーを受けているような感じでした。アメリカは土地が広いですから、「小型の原発であれば砂漠の中にポツンとあるコミュニティでも使うことができる」とか、「これは工場で部材を全部作って現地では組み立てるだけなので建設も簡単だ」といったメリットを説明していました。

多くの問題点が指摘されている革新炉

このニュースケール社のSMRが、数ある種類の革新炉の中で今は一番実用化に近いと言われています。すでに米国原子力規制委員会(NRC: Nuclear Regulatory Commission )から設計承認は下りていて、もしかすると5年以内ぐらいに稼動し始めるのではないかとも言われています。とはいえ、やはりコストの面で見たらまったく他のエネルギー源と比べて採算が合わないのではないか。あるいは、小型ということは核拡散の点でセキュリティをさらに手厚くしなくてはいけないのにそれは不可能じゃないか、といった、多くの問題点が指摘されています。私たちNDが過去に行なったシンポジウムでも、NRCの元委員長が「これは推進できるものではない」といったことを話していました。

「革新炉」と聞くと、なんだかすごく進んだ技術のような、華々しいイメージがありますよね。10年くらい前には、「アメリカの原発はとても停滞しています」とだけ言えば原発のお話はおしまいだった時期があるのですが、今は、その「革新炉」という呼び名の新しさの印象に引っ張られて、当時と比べて原発の議論全体が、表面的にはちょっと未来も感じさせるような、浮ついた雰囲気があるように思います。しかしその「革新炉」と言われるものを丁寧に見てみると、それが具体的に商業炉として使われる将来が来るという段階には、実際はまだ全然至っていません。

そもそも、それが新しいのかというと全然新しくなくて、古い技術をちょっとだけ塗り直して「新しいよ」と言っていたりします。一見華やかに見えるので「新ルネッサンス」と言われたりもするのですが、現実的な批判を聞くと「新ルネサンスなのか?」「過去のルネッサンスも本当にあったのか?」という気持ちになります。

米政府もあと押しをする高速炉「ナトリウム」

今日は、その「革新炉」と言われるものの中でも「高速炉」の話を、日米協力と再処理という文脈からしていきたいと思います。アメリカの「革新炉」と呼ばれるものの一つに、テラパワー社が開発している「ナトリウム」という名称の、ナトリウムによって冷却する型の高速炉の実証炉があります[p.5]。テラパワー社は、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツさんの設立した会社です。これに日本の会社が関与しています。

このテラパワー社が作ろうとしている高速炉は、ワイオミング州という本当に広い土地がある州で、廃止予定の石炭火力発電所があるところに設立予定です。今アメリカはけっこうな勢いで「脱炭素」を図ろうとしているので、石炭火力発電所を廃止していこうという動きがあります。火力発電所があった場所に高速炉を設置すれば雇用もそのまま引き継いで維持できるのではないかと見込んで、アメリカ政府も後押しをしており、テラパワー社の高速炉開発に非常に多くの資金を投入している状況になっています。

犯罪と補助金がなければ成り立たない産業?

この「革新炉」と言われる炉にはアメリカ政府から多くの補助金が出ていますし、例えば燃料の開発といったものにも補助金が出ています。原発に反対する立場のアメリカの専門家の方にお話を聞くと、原発は補助金がなければ回らない産業だということが、この10年間で本当に明らかになったと話していました。市場経済の中では生きていけない代物なのだと。

ついでに言うと、贈収賄などの原発にからんだ大型犯罪も起きていて、州の議員などが逮捕されたりしています。それで「犯罪と補助金がなければ成り立たない産業が原発なんだ」といったことを反原発の研究をしている方々が話していたりします。犯罪は今日のテーマから外しますけれども、政府の補助金が本当にもうザクザク原発産業に流入している感じです。

バイデン政権は気候変動対策を大きく掲げていて、特にコロナ後、いくつかの巨大な政府出資を伴う法律を成立させてきたのですが、その中でもインフラ整備の名のもとで原発を多く整備するというものがあり、こういった「革新炉」に補助金を出し、その一つとしてテラパワー社の高速炉にも多くのお金を出している状況です。こういった補助金目当てに、補助金がなければ成り立たないようなプロジェクトが米国の原発業界ではたくさん進んでいます。

米ナトリウム冷却高速炉開発に日本が協力

高速炉開発の研究についてもう少しアメリカの状況を説明すると、バイデン政権になる少し前の2020年あたりから、政府が資金負担をして革新炉の実証プログラムを後押しすることが始まりました[p.7]。同年10月に、テラパワー社のナトリウムがその支援対象となりました。そして2022年、ここでアメリカから日本に話を移していきますが、日本とこれを協力してやっていきましょうということで、「カーボンニュートラル実現に貢献するナトリウム冷却高速炉技術に関する日米協力の推進について」という覚書を、米テラパワー社、日本原子力研究開発機構、三菱重工、三菱FBRシステムズ株式会社で締結して、これから開発協力をしていきましょう、ということになりました。日本には高速増殖炉「もんじゅ」や実験炉「常陽」といったこれまでの経験があるので、アメリカ側としては、協力を進めてその知識を借りたいと思っているということです。

日本が協力することによって、今後、日本人の税金がいろいろな形で高速炉やその周辺に注ぎ込まれるのであれば、その実現可能性は日本にとっても重要事項です[p.8]。そもそも反対だから、お金をどれだけ積まれてもできない方がいいという言い方もできるでしょうが、実現可能性の低いものに多額のお金を注ぎ込むのも馬鹿馬鹿しいことです。まず技術面とコストの問題については、松久保さんもおっしゃったように、ナトリウムというのは非常に取り扱いが難しく、日本では、今まで60年にわたり大量のお金を使って研究されてきましたが、今に至っても商業化されていません。これはアメリカでも、状況は基本的には変わりません。

次世代炉に必要な燃料の調達に課題

それから、日本ではあまり知られていないのですが、燃料の問題があります。多くの革新炉、第4世代の原発と言われるものは「HALEU」(ヘイル=High-assay low enriched uranium: 高純度低濃縮ウラン)という燃料を使うことが予定されています。HALEUとは、これまで使われている既存原発の燃料より、ウラン濃縮の度合いをもっと高めた燃料です。このHALEUをこれから開発しようとしているセントラス・エナジー社は、ウラン濃縮度を高めることで原子炉も小さくできるし、燃料交換の頻度も減らせて、放射性廃棄物の発生量も削減できるので、とても便利な燃料なんだという言い方をしています。

しかし、このHALEUは、現在なんとロシアの企業一社だけしか商用販売をしていません[p.9]。ウクライナ戦争が続く現在、ロシアからの原発の材料に頼り続けるのは良くないということになっています。しかし、今は全然変わらずに買い続けています。原発関連のものはロシアへの経済制裁の対象になっていないので、今までどおりロシアとアメリカ、ロシアとヨーロッパの間で原子力関係の貿易は続いているのです。でも、それが望ましいことだとは思っていないので、何とかHALEUを国内生産できるようにしたいと政府が補助金をつけたりしています。

しかし、アメリカには生産に欠かせない遠心分離機を供給できる企業がありません。また、たくさんHALEUを作っても、今はそれを使う革新炉がないわけですから、燃料を開発する企業としては「早く革新炉を作ってくれよ」と、革新炉を開発する企業のほうは「早くHALEUを作ってくれよ」という、どちらが先に損するかみたいな話になっています。結果、新サプライチェーンを早く構築しないと、そんなものを作っても意味がないという話になっていて、テラパワー社も次世代炉の稼働は2028年を予定していたのですが、それを少なくとも2年間延期すると2022年に発表しています。

日本の高速炉計画については、先ほど松久保さんがおっしゃってくださったので省略しますが、今のところはスライドの下[p.10]に書いてあるように、2024年度から実証炉の概念設計・研究開発を開始して、2040年代には実証炉の運転開始を予定しています。その中でもナトリウム冷却高速炉が最有望だということで、それを研究開発する中核企業として三菱重工がつい2ヶ月前に選定されました。

なぜ日本はアメリカのプロジェクトに関与するのか

アメリカのプロジェクトは、燃料がないとか、ナトリウム冷却高速炉が実際にできるのかとか、さらには、失敗した日本の知見を借りたいと言って日本と組むなんて大丈夫だろうかとか、いろいろと疑問があります。テラパワー社の人との面談で、日本の国会議員から「失敗している日本と組んでどうするのですか」と質問されて、「それでも失敗から学ぶことはいっぱいあるんです」と返事していました。いずれにせよ、今のところは米側のプランにしてもまだ紙の上のものでしかありません。実際に動き始めるかどうかといえば、「基本的には難しいだろう」と多くの専門家が言っている状況です。では、なぜそこに日本が関わるのか。

高速炉では、使用済み燃料から取り出したプルトニウムをもう一度燃料として使えます[p.11]。日本は核兵器5,600発分のプルトニウムを国内外で保有しているという話がありましたが、日本にあるMOX燃料装填可能な既存原発では、このプルトニウムをなかなか減らすことができせん。ですから、高速炉を作って、そこでプルトニウムをどんどん使いたい。それから、先ほど説明があったように、放射性廃棄物を減量していくために高速炉はとても便利なものであるとして、日本政府は高速炉を「核燃料サイクル政策の要」だと位置づけて進めたいのです。

また、高速炉の開発そのものについても日本として進めていきたいけれども、「もんじゅ」が廃炉になり、フランスと高速炉「アストリッド」で組もうと思っていた計画も中止になってしまったので、国内実証炉の開発に資する開発研究の場をアメリカに持っていく、ということです。開発研究の資金が比較的集まりやすいアメリカと組むことで開発を前進させ、技術的な知見を得て、研究者を育成して、技術を絶やさないということを考えている。三菱重工など経済界としても、高速炉開発に関わってきた技術者や企業が参加できるプロジェクトが日本にはないので、テラパワー社がアメリカでやろうとしてる「ナトリウム」計画に日本から参加することで、何とか高速炉を開発する道筋をつけていきたい。そうして、破綻している再処理・核燃料サイクルを生き長らえさせたい。こうしたところに、今回の日米協力に関しての日本側のモチベーションがあるだろうと思います。

コストに関係なく、核燃料サイクルを維持したい日本

しかし、先ほども申し上げたように、そもそもアメリカでテラパワー社が高速炉を開発できるのかどうかわかりません。稼働予定を2年延ばしたところで、できる感じはまったくしないというのが肌感覚です。日本でも本当に高速炉が必要なのかがよくわかりません。むしろ、やめたほうがよさそうです。もしかしたら技術的には実現できないわけではないかもしれませんが、議論をコストの話に戻せば、経済的な意味でそれを使って発電したいと考える電力会社はアメリカの中にはないというのが通説です。

アメリカでは「市場原理の下では成り立ちえないものを、なんで作るの?」となる。原子力の研究者で技術開発に熱心な人であっても「コストでは厳しいよね、無理だよね」と言います。コストについてアメリカは非常に厳しいので、「誰も投資しないよ」という視点なのです。しかし日本は、原発に関してコストパフォーマンスみたいな考えがまったく適用されない社会なので、「何とか技術だけを残したい」「何とか核燃サイクル維持を」ということでアメリカのプロジェクトに関わっているのです。

ここで一度、私の話はおしまいにしたいと思います。ありがとうございました。

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