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 【質疑応答】

国際機関からの関与を拒否している問題について

桃井:ディスカッションの時間をいったん終えて、いただいている質問に皆さんにお答えいただければと思います。

「国際機関からの関与を拒否している問題については、どうすれば変えられるとお考えですか」。どなたに対してのご質問か書いていないのですが、「IEA(国際エネルギー機関)の2050年ゼロエミッションシナリオ(Net Zero by 2050 – A Roadmap for the Global Energy Sector)とかの、本来国際的な不整合を調整するべく出されているアウトプットが一つの審議会の中で用いられない状況について」というご質問が来ていますが、松久保さん?

松久保:出ているレポートをちゃんと審議会の中で審議しようとしないのは、その通りなんですよね。例えば、おっしゃる通り2050年ゼロエミッションシナリオについてはまったく議論なんかされないですよね。

桃井:そうですね。都合のいいところだけ出してくるみたいな。

松久保:つまみ食いだけするんですよね。いつもそうですね。

誰の「血が流れる」のか?

桃井:では次、「井田さんの言う『血が流れる』というのは誰の血が流れるのでしょうか」

井田:いろいろところに既得権益でいろいろなものを作ってきたので、これをやるのは大変なことだというのは多分皆さん想像できると思います。まさのさんがおっしゃったように、それがなければ六ヶ所村は生きていけなくなるような再処理工場を作ってしまったもので、「再処理工場をなくします」と言ったら、議会、市民、建設会社など全部ですが、大変な血が流れることになりますよね。あそこを止めると原発が立ち行かなくなるので、使用済み燃料の行き先がなくなって、中間貯蔵施設がないので原発労働者も原発に依存してる人たちも大変なことになる。地域も、大企業も大変になる。

日本原燃というまったく生産物のない会社が、なぜあれだけ長いこと存続できるか。それだけ見ても日本はまともな経済原理が成り立たない国だと思うのですけども、再処理をやめた途端に日本原燃は処分しなきゃなりません。そういうふうに、あちこちにいろいろなものを作ってきちゃったので、大きな血が流れることになると思います。

「ジャストトランジション」(公正な移行)という言葉を皆さんお聞きになったことがあると思うのですけども、日本はそれをやっていないのがいけないんですよね。だから石炭火力も潰してないし、原発も潰せないし、再処理も止められない。トランスフォーマティブなチェンジをするためには、本当にその「公正な移行」として、労働者のリスキリングとか、地域に別の産業や雇用のソースを作るという政策にこそお金と労力を投じるべきなんだけども、それが怖くて血が流せないもので、どんどん輸血をして薬をやって医療費だけが上がって、病人はひん死に向かっていくという状況で、これをいつまでも続けていいのかな、ということですね。

特にやっぱり地域の雇用とか産業を考えると大きな血が流れる。それはもう政治的な意志でやるんだ、と誰かが思わないとなかなか進まないことなのかなと思います。

GX関連法で再処理については何が変わったのか

桃井:とりあえずみんな今の自分の時代だけはしのいで、次の世代に……ということで止められないのがもどかしいですね。最後の質問になりますが、「GX関連法で再処理については具体的に何が変わったのでしょうか。原子力基本法に再処理が入ったことでどう変わるのかも気になります。核燃料サイクルは原子力基本法の原子力機構のところにしかなさそうですが」ということです。これも松久保さんにお答えいただいていいですか?

松久保:基本的に再処理はずっとそうだったのですが、国が推進すると前から原子力基本法には書いてあって、今回のGX関連法というかGX基本方針の中に「再処理を推進します」ということが書かれているんですね。だから基本的には掛け声ですよね、再処理に関しては。

あと、再処理というか核燃料サイクルまわりに関しては、いろいろな予算がついています。新型炉がらみでも予算がつきましたし、個人的にすごい雑駁な言い方をしますけど、今回のGX関連法は原子力とか石炭火力に関しては「三菱重工のための政策」だと僕は思っているんですね。

基本的に、先ほど猿田さんが出してくれた米テラパワー社との協力では、日本原子力研究開発機構(JAEA)、三菱重工、三菱FBRシステムズの3社で覚書を交わしていますが、JAEAの今の理事長も三菱重工の出身者ですから、ある意味で三菱重工なんですよ。予算がついた先も基本的に三菱重工なんですよね。少なくても原子炉に関しては三菱重工です。石炭火力についても、今火力発電所を作ってるメーカーは三菱重工で、日立は三菱重工に売ってしまいましたから。そうなってくると三菱重工のための政策になると勝手に思っています。

まさの:もう一つ付け加えていいですか。関連法の中に、これは「束ね法案」だったのであまり目立たなかったんですけど、実は再処理法も入っていたんです。どこがどう変わったかっていうことはちょっと横に置かせていただいて、情報提供として言いますと、再処理法で使用済み燃料の再処理の着実な実施のため必要な措置を講ずるということが目標で定められていて、使用済燃料再処理機構というものを法律でばっちり定めているので、さっき「血が流れる」っていう話が出ましたけれども、とりあえずは国会でこの法律を変えないことには、にっちもさっちもいかない。

日本原燃というのは、実はこの法律で定めている組織である使用済燃料再処理機構が本当は再処理をするのだけど、委託ができるとなっていて、単に委託しているだけなんですよね。日本原燃は9つの電力会社と日本原子力発電所ほか74社が株主で、がんじがらめになっている。しかも、この再処理法の第4条で、原発事業者は再処理業務に必要な費用を充てるために拠出金を納付しなければならないとなっているから、たぶん「核燃料サイクルやめます」となったら電力会社はそれを負担しなくてよくなるから、本当は経済的にはありがたいはずだと思うんですよね。だけど、やっぱりそういう決断ができない状態になっていて、今回のGX関連法でもこの根幹はまったく揺らいでいないということを、情報提供として言わせていただきます。

 【最後に】「私たち市民にできること」

桃井:ありがとうございます。時間なので、最後に一言ずつお願いします。その時に、ここで皆さんは市民の立場として主張されている方が多いと思うので、私たち市民がこの問題に対して何ができるのか、どういう風にしていったらいいのかも踏まえながら、もう少し未来の展望を明るくしていくためにどうすればいいのかというところを最後コメントしていただいて、終わりにしたいと思います。

日本が核兵器不拡散の規定を緩めている

松久保:今日はありがとうございました。核燃料サイクルは、やっぱりちょっと難しい問題だと思うのですけれども、ただこれをずっと続けていくと本当に後世の人たちに本当に申し訳ないことになってしまうと思います。

それから、先ほど僕が申し上げた核兵器とのからみ合いですよね。核兵器との関連で日本がずっと核燃料サイクルに固執してきた結果として、「核燃料サイクルを平和利用として使ってもいいんだ」という意識が広がっている。その結果として日本を参照して、例えばイランやサウジアラビアが「日本が核燃料サイクルをやっているのだから、うちもやってもいいんじゃないか」とか、韓国が「日本が再処理やってるのに、何でうちは再処理をやらせてもらえないのか」となると、日本が核兵器不拡散の規定をどんどん緩めている形になってしまってるわけです。

それは世界の安全にとっても非常によろしくない。なので、私たち市民として、日本が核燃料サイクルをやることが核兵器の拡散につながってしまうことを意識して言っていかなきゃいけない。市民だから無理だということではないんですよね。例えば核兵器禁止条約だって市民の声から立ち上がった国際条約だと思うんですよ。だから、やっぱりそういう市民の声を立ち上げていくことによって、この問題をひもといていくのが一番重要なのかなと思います。

「1%対99%」を理解したうえで頑張る

猿田:2011年に起きた福島での原発事故後に、あれだけ日本の国民が「原発はいやだ」と意思表明をしていたのに、原発フェードアウトの方向から岸田政権が転換をしてしまうのを、たったの10年足らずで目の当たりにするのは日本社会のあり方として非常にショッキングなことでもあります。私が普段メインでやっている安全保障、平和の問題も、あれよあれよという間に大転換をしています。

先ほどから、どうしてマスコミがちゃんと流してくれないんだろうとか、政府はどうして国民の声を聞かないんだろう、という話をずっとしてきました。たったの10年で、あれだけの大惨事があって7割とか8割という振り切った世論調査の結果でみんなが「原発反対」だったのに、今こうして覆されている。たくさんの人たちが原発反対ということで国会の前に集まって、デモが毎週のように行なわれていたのに原発推進に変わってしまったことに対して、市民運動は力が足りないとか、みんなもっと声を上げないととか、日本国民は政治的無関心でどうしようもないといった批判があるのですが、私が遅ればせながらたどり着いた結論は、「権力の持っているプロパガンダ力は本当に強烈にすごいんだな」という、そこなんだなと思っているんですよね。

私とかがやっていることも無力で、シンポジウムとかイベントもいっぱいやってきたし、こうやって呼んでいただいたりもしてきたし、メディアでの発信もちょっとずつ参加させていただいてきたのですが、それを上回るだけの大量のお金と大量の資源と大量の人員を「あっち側」は動員しまくっている。日本にある資源の多分95%とかがあっち側にあるので、もうなんていうか無力感にさいなまれるとかではなく「デフォルトがそれなんだ」と思うしかないんだと。

多分、遅いんですよね。井田さんにしてみたら、50年前にもう気づいていたっていう感じだと思います。頑張れば変えられると今でも思ってるし、やらなければ変わらないことにも変わりないし、やることも変わらなくて、もっと頑張るだけなのですが。「こんなに頑張ったのにダメだった」とか「10年でこんなに変わるなんて日本の市民の声はなんて情けないんだろう」とかではなくて、デフォルトであっち側のプロパガンダ力が破壊的に強力なんだ、と。その意味で、持てる情報拡散能力は、あっち側は99%と言ってよいかもしれません。

1%対99%なので「こうなって当たり前」なんですよ。向こうはそれだけ全力でやっているわけですから。なので私たち資源1%の側としては、人間の数としては99%でも、持っているお金とか持ってるチャンネルとかメディアの力とかの99%はあっち側にあることをわかったうえで頑張りましょう、ということ。遅くなってしまいましたが、この「デフォルト」に、やっと気づきましたので、皆さんこれからも頑張りましょう。

核燃料サイクルの「馬鹿馬鹿しさ」を伝えていく

まさの:私は1%側の人間だということを、もう長年自覚したうえでやっているので、猿田さんがそこに行き着いたと聞いて、何かとっても最後に嬉しくなってしまいました。

もともとダムの問題とかをやっていて、原発問題にはあんまり詳しくなかったのですが、原発事故の後に「これは一世代で終わる問題じゃないから、ダムの問題以上にもしかすると私はエネルギーを割かなきゃいけないんじゃないか」ということを薄々感じつつ、12年目になっています。

知れば知るほど馬鹿馬鹿しい問題がいっぱいあって、その馬鹿馬鹿しさの頂点に立ってるのが核燃料サイクル問題だなと思っていて、本当にびっくりすることの連続です。なので、知ればおそらく一般の人々もこれは大変な問題だと思ってくれるはずだと思っていて、諦めずにやっていこうと思っています。今日は参加させていただいて勉強になりました。ありがとうございました。

市民運動で取り組むべき3つのチャンネル

井田:僕はたぶん、圧倒的にこの中では年寄りで、長年やってきて自分は何をやってきたんだろうと思う今日この頃です。猿田さんがおっしゃる通りなんですよね。本当にプロパガンダ力の最も発揮されるチャンネルの一つが原子力であり、エネルギー政策だと僕は思っていて、これと戦うのはもう本当に容易ではない。

ただ、もう経済原理を見ても、世の中の動向とか各国の研究を見ても、このままじゃ駄目だというのはわかりきっているので、死にゆく人の背中をうまく押してあげるような仕組みを作ることができれば、意外とうまくいくかもしれないと。これだけヨロヨロになっていて、断末魔の取り組みみたいなところがいっぱいあるので、意外と原子力に関しては諦めることもないかなと思っています。

お話ししたように政策の中身はめちゃくちゃなんですけども、それを変えるにはやっぱり議論の仕方を変えなきゃならない。もちろん市民運動として声を上げていくことは大事なんですが、アドボカシーとしては、実は松久保さんおっしゃるように電力会社も再処理なんてやりたくないと思っているんですよね。使用済み燃料の行き先さえできれば、もう早くやめたいと思っている。そういう本音の議論をしてくれる企業の人と、市民社会、市民団体が密接に議論する。表には出てこなくても行動すること。

あと、まともな政治家は昔はいたんですけども、今はほとんどいなくなっちゃったんで作らなきゃならない。時間はかかるし、ちょっと危ないと捕まってしまったりすることもあるので難しいのだけども、まともな政治家を作っていく努力が必要。特に今の構造だと自公政権は当面変わらないので、野党ではなくて与党の中で作っていく努力が、市民社会側には必要だと思います。

もう一つは投資家だと思っていて「こんなものにいつまでお金を出すんですか」というプレッシャーをかけるとか、そういう人たちと話をしていくっていう。その3つぐらい、企業のまともな人と話す、まともな政治家を作る、あと海外の風にさらされている大手投資家と話をしてそこを動かしていく、という3つのチャンネルが市民運動としては考えられるかなと思います。

桃井:ありがとうございました。時間になったので、ここで締めていきたいと思います。本当にこの構造的にすごく巨大なものと戦わなきゃいけないという難しさがあり、その中に切り込んでいくためのきっかけみたいなものは、井田さんからもご指摘いただいたように、権力の側にも少し亀裂やほころびがあれば、そことしっかり手を組むというようなこと。それから、まさのさんみたいに地道に積み重ねて議論を見える化していらっしゃる方がいますので、それをしっかり私たちも目にしながら、「一体誰がその権力の中心にいて、誰が鍵を握っているのか」みたいなところもチェックしていけるといいのかなと思います。

では、本当に皆さん、長い時間ありがとうございました。

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