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トップページ イベントレポート 2023年度「ネオニコチノイド系農薬に関する企画」公募助成成果報告会


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◆れんげじオーガニックマーケット(発表者:杵塚歩)
子どもたちのオシッコと母乳のネオニコ調査

市民参加の残留調査プロジェクト

静岡県中部の藤枝市で「れんげじオーガニックマーケット」をやっています。10周年企画として、71人の子どもたちの尿と、14人のお母さんたちの母乳のネオニコチノイド系農薬残留調査をしました。ネオニコ汚染がこれだけ広範であるにもかかわらず、自分たちの問題として考えられていない現状に対し、それを変えるきっかけにしたいと思って本調査を企画しました。また、農産物や飲食、雑貨を扱うマーケットを通じ、地域に根差した有機農業やものづくりに密接にかかわってもらい、市民参加による身近な活動にしていきたいと考えました[p.1]。

A4のチラシ[p.2]を作って、藤枝市と近隣市町村に声をかけて尿と母乳のサンプル提供者を募集し、年3回の学習会を広報しました。ちょうど2023年2月に藤枝市が「オーガニックビレッジ宣言」(農水省の「みどりの食料戦略法」に基づいて有機農業に取り組む地域ぐるみの宣言)をしたタイミングであり、その協議会メンバーにわれわれも入っているので、6月に市内の全小学校に配布してもらいました。多くの参加者が集まることを期待しましたが、ふたを開けてみるといま一つでした。子どもと楽しめるようなイベントなら人が集まるのでしょうが、農薬の学習会という硬い内容であるため、あまり反応がよくなかったようです。11月にはマーケットと上映会の新しいチラシを全小中学校に配布しました。

子どもの尿すべてからネオニコチノイドを検出

調査[p.3]の結果をまとめます。サンプル提供者のアンケート回答によると、有機農産物を半分以上選択していると答えた人の割合は、米では67%、野菜78%、果物57%、お茶71%となり、有機農産物に関する意識の高い方々でした[p.4]。しかし、尿の検査結果では、71人の子どもの尿すべてから何らかのネオニコチノイドが検出されました[p.5]。母乳のサンプルは提供者14人の半数7人から検出されました[p.6]。尿と比較すると検出濃度はとても低いです[p.7]。

同じ家族で母乳と子どもの尿からの検出傾向を比較すると[p.8]、例1では、母乳不検出ですが、離乳食を食べ始めた1歳の子どもには検出がありました。同じく例3でも母乳は不検出で、0歳の子どもと7歳からは検出がありました。検出されたネオニコの種類はきょうだいで異なるので、食べているものが違うことが考えられます。例4でも母乳からは不検出で、1歳の子どもからは検出されました。最後に右端の例2では、やはり母乳からは不検出でも、子どもの尿からは非常に高い濃度の検出がありました。これらの例では、少なくとも朝と晩は親子で同じ食物を食べているはずですが、母乳からの検出数値はとても低いことがわかりました。


暮らしと結びつけて考える仕組みづくり

ネオニコチノイドに対して当事者意識を持ってもらいたいという目的がありましたが、参加者アンケートを取ると、ふだん食べているものが自分たちの母乳や子どもたちの尿に出ていることを目の当たりにし、今後は食べ物の選択を考えていきたいし、もっと学びを深めていきたいという感想がありました。マーケットの活動としては、今後も調査結果報告会を開きながら、それをふだんの農業や暮らしにどうやって結びつけていくかを考え、農園訪問と学習会を組み合わせるなど、より柔軟なアプローチを模索しています[p.9]。参加者は女性がほとんどでしたが、食品の選択や料理や育児の役割に加えネオニコの問題を考えることも、すべてが女性に偏ってしまうことは負担になるので、今後はお父さんたちにも働きかけていきたいと考えています。

≪質疑応答≫

会場:調査対象の子どもたちの年齢は。

杵塚:0歳から小学校6年生までです。

会場:お母さんの尿からは検出されなかったのでしょうか。

杵塚:今回は母親の尿は未調査です。

安田委員:離乳食の子どもから検出されたとのことですが、どの食材が原因だと考えられますか。

杵塚:食べさせているものを聞いたところ、お米ではないかと考えています。

星コメント:尿中濃度が低かったとのことですが、尿を採取する時期は大事です。私たちの研究では、母親の胎盤や母乳を経由して摂取した赤ちゃんの血中濃度は、母親と同等かそれ以上という結果が出ています。尿は血液のろ過物であるので、そんなに変わらないと思っています。ネオニコは代謝がとても早いので、1日で血中から消えてしまいます。ネオニコが残留した食物の摂取後に、サンプル採取までの時間差があるとうまく計測できません。環境中の濃度測定でも春夏の農薬散布時と冬場では全然違うことがわかっていますので、母親が食物をいつ摂取したかという厳密な時間が記録されていないと、不十分なデータになってしまいます。気をつけてください。


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◆くまもとのタネと食を守る会(発表者:間澄子)
デトックスプロジェクトで疑念の残る私設井戸水の調査とオーガニック関連の店舗とのコラボによるカエルとのトーク動画の拡大

前年の企画で残った課題を受けて

私たちは一昨年「デトックスプロジェクト」を行ない、有機食材の摂取で尿からのネオニコチノイド検出が低下する様子を調べました。その際に、農薬の含まれないスイスのミネラルウォーターを配布したものの、私設井戸水を使用している人の結果に疑問が残ったので、その地域の井戸水の汚染を追跡調査することにしました。また、カエルのパペットを使った親しみやすい動画を作ってきましたが、その動画を使って対話を進めることも今年度の企画としています。

井戸水を上回った水道水からの検出

「私設井戸水からはネオニコチノイドが検出される」という前提で行なった調査ですが、この仮説に反して、井戸水(八代市古閑中町)からの検出は検出限界値未満となりました。いっぽうで、地下水を源泉とする水道水(八代市古閑中町)から9月に検出があり、表流水で氷川ダムを水源とする水道水(八代市千丁町)からの検出を上回りました。これも予想を裏切る結果です。飲料水の水質は、水源や処理方法、地質によって異なるということがわかりました[p.2]。ネオニコ検出の具体的な数値はp.3に示したとおりです。

同時に、同じ調査地点で硝酸性窒素と亜硝酸性窒素も調査しました。こちらも若干ですが、当初の予想に反して、地下水を水源とする水道水のほうがダム由来の水道水を上回る結果になりました[p.4]。

氷川ダムと地下水とでは、浄水処理の方法が異なります。急速濾過や沈殿処理を行なうダム水源の浄水処理[p.5]に対し、地下水の場合は、中途の処理が水道法で定められた塩素滅菌のみとなっています[p.6]。したがって、地下水が汚染された場合には、それがそのまま給水されてしまうわけです。

今回調査した八代市の水道の硝酸性窒素検出値に大きな問題はなかったのですが、熊本市の場合は異なります。熊本市の水道原水の経年推移を見ると、硝酸性窒素の水道水基準値である10mg/Lに迫る数値が出ており、年々上昇傾向にあります[p.7]。農業に起因する汚染を調べるときに、肥料に由来する硝酸性窒素を調べることは、農薬との関連を見る参考になります。

拡大する水の問題をどう伝えるか

さらに、PFAS(有機フッ素化合物)汚染の問題も聞こえてきました[p.8]。難分解性のPFASは、熊本市でも地下水を水源とする水道水や川の水からも検出されているので調査しています。PFASは、ネオニコチノイド系農薬のイミダクロプリドにも添加剤として使用されているという話があります。地下水を利用する半導体産業が30カ所超入ってくる熊本市で、この問題がどうなるか注目していきたいと思っています。

最後に、「楽しくない」農薬問題をどうやって自分ごとにするかという課題として、動画を見る会を4カ所で実施しました[p.9]。難しい星先生のお話も、子どもに語りかけるようにしていただいているので、とてもわかりやすい動画になっています。直接見てもらい、直接皆さんとお話しすると「そうなのね!」とびっくりされる方が多かったです。農薬問題をどう伝えるかは、これからも私たちの課題として残っています。

≪質疑応答≫

会場:カエルの動画はどこにありますか。

間:くまタネのサイトから見られます。ぜひご覧ください。


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◆特定非営利活動法人・西日本アグロエコロジー協会(発表者:池上甲一)
農家と消費者の参加型調査による農薬の圃場生態系への影響比較(2023)

住民参加型調査は2年目に

2年続けてのプロジェクトになります。本調査の目的は、水田の昆虫を中心に生物相を調べることと、昆虫に悪影響を与える農薬の残留濃度を調べ、両者の関連を把握することになります。実際に使われている水田の調査はなかなかないので、利点になっています。アグロエコロジーの見地から、耕地と周辺の生態系を重視する意義があります[p.2]。参加型調査として、子どもを含む参加者と濃密なコミュニケーションをとれたことも特徴です[p.3]。

田植えの前後と出穂の前後の計4回、慣行水田と有機水田で水と土壌と稲の葉(3回)を採取して分析しました。同時に生き物調査をしています[p.4]。そのほか、大規模経営が増えていることが昨年わかったので、大規模稲作農家を対象とした聞き取り調査もしました。また、生き物とのつながりを重視した「生き物米」が消費者に受け入れられるかどうかをアンケート調査しました[p.5]。

調査地の特性と生き物調査結果

調査対象地域は兵庫県丹波市、滋賀県高島市で[p.6]、調査水田の概要はp.7のとおりです。生き物調査に先立って、昆虫類の生息に関わる周辺の環境を把握し、農薬の移動に関わる水の流れを把握しました。高島市は琵琶湖から揚水してパイプラインで給水しています。きれいな川があり、その河口や琵琶湖の周辺に林がある恵まれた環境です[p.7左]。丹波市は溜池を使う循環灌漑で、ポンプを使って水田に流した溜池の水を再利用しています。一度汚染があると、その水が再び使われる恐れがあります。谷あいの水田で背景に里山があり、生態系は豊かです[p.7右]。

高島市の生き物調査の結果はp.9に示したとおりです。スイーピング法で捕捉した陸生昆虫の種数と個体数の多さは、カメムシ目、バッタ目、クモ目のいずれも、減農薬水田、有機水田、慣行水田の順になりました。この場合の減農薬とは、田植えの際に水溶除草剤を1回撒くだけで、実質的には有機農業に近いです。特徴的なのはクモで、徘徊性のクモは減農薬水田、有機水田では4回とも確認されましたが、慣行水田では農薬散布後にゼロになりました[p.10]。

参考になりますが、粘着トラップ(圃場に1週間設置して飛翔性昆虫を採取)での結果はp.11のとおりです。スイーピング法では捕まえにくい昆虫が対象ですが、ハエが多く、カメムシ目でも稲の害虫となる種類は皆無で、ヨコバイやウンカ、アメンボが主でした。畦畔除草をしている慣行水田ではハエと同程度にハチが捕捉されました。スイーピング法とは異なり、粘着トラップ法では減農薬水田、慣行水田、有機水田の順に個体数が多い結果になりました[p.12]。有機水田では畦畔の草が多いため、トラップに虫がかからなかったと考えられます。

次に、すくい取り法で水生昆虫を調べた結果です[p.13]。種数の多さは同じく、減農薬水田、有機水田、慣行水田の順になっています。減農薬水田と有機水田では、コウベツブゲンゴロウ、シマゲンゴロウ、マダラコガシラミズムシといった希少種も捕捉できました。詳しくはp.14の一覧表を参照してください。

高島市の生き物調査をまとめると、減農薬水田が種数・個体数ともに多かったこと、除草や水田の水管理などがキーになっていたことが挙げられます[p.15]。

次に丹波市の生き物調査ですが、粘着トラップ法の結果はp.16のとおりになります。すくい取り法での水生昆虫調査では、有機水田ではガムシ類など種数が多く、個体数は少ない結果になりました[p.17]。慣行農法のほうが個体数は多いという結果です[p.18]。これは田に水を入れる時期の問題があったと推測しています。地区全体としては生物相が豊かでした。害虫であるカメムシは慣行水田で少なく、やはり農薬と草管理の影響が考えられます。[p.19]。

稲作では使わない農薬の検出も

次に、残留農薬検出についてですが、高島市で気になったのは、非ネオニコ系であるクロラントラニリプロールの検出が多く見られ、水域環境基準を大きく超過する数値があったことです。稲作では使わない農薬なので、メカニズムを分析する必要があります[p.20]。さらに、琵琶湖からの給水バルブからも複数のネオニコ系農薬が検出されました。しかしそのバルブ水の検出濃度だけでは、減農薬水田・無農薬水田で検出された濃度には満たなかったので、周辺からのドリフト(飛散)があったことが考えられます。慣行水田のほうは、周囲も慣行稲作地域なので、調査対象の水田では使用実績のない農薬が検出されたことも説明がつきます。複数のネオニコ系農薬が検出され、田植え後から濃度が上昇しました。ただし、中干後は水を入れていないため、その後の水の調査ができませんでした[p.21]。

大規模稲作農家の水田については、農薬利用の影響はほとんどないことがわかりました。環境保全型稲作をやりたくて入作した農家が多いためです。「環境こだわり米」が付加価値によって高値がつくことや、高価な殺虫剤を使いたくないという経済的理由、農薬散布で周囲に迷惑をかけたくないという心理的理由などが、地域全体の取り組みとして共有されることが重要です[p.22]。

丹波市は、2022年度調査との比較を申し上げます。ジノテフランの高濃度検出があり、前年度よりも高くなっていました。そのほか、詳しくはp.23~25にまとめました。赤字で示した値が高い検出値(登録基準値超過)になります。

最後に、全体のまとめですが[p.26]、高島市のX地区(減農薬、有機水田)ではある程度環境保全型稲作が広がっているので、これをさらに他地区まで広げるためには、消費者の支持が重要になります。そのため、このような環境保全米への支払意思額の推定をしていきたいと思います。また、中干の影響を考慮した調査の枠組も必要になりました。昆虫類の調査結果と残留農薬の調査結果の関連はまだ明確化できていないので、水管理などの環境要因を含めた分析を検討していきたいと思います。

≪質疑応答≫

星コメント:クロラントラニリプロールは、バッタ類の防除に用いられていますが、宮古島の地下水からはEUの基準値の倍を超える検出がありました。曝露によって不安様行動を取ることもわかっているので危惧しています。


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◆神戸大学大学院 農学研究科 動物分子形態学分野 星研究室(発表者:星信彦)
ネオニコチノイド系農薬による母性行動への継世代影響

これまでわかっていること、明らかにしたいこと

ネオニコチノイドは、タバコ中に含まれるニコチン同様、ニコチン性アセチルコリン受容体に結合し、脳および自律神経系を攪乱することで殺虫作用を示します。現行の農薬評価書では無毒性量とされている濃度でも鳥類や哺乳類に悪影響を及ぼすことなど、すでに明らかになった知見についてp.2~3に示しました。世代を越えたネオニコチノイドのリスク評価は急務であり、継世代影響(エピゲノム毒性)が危惧されています。

これまでの研究で、胎子・授乳期でのネオニコチノイド曝露によって、継世代的な食殺・育子放棄の増加など、母性行動の悪化を報告しましたが、その原因として「オキシトシンや親の不十分な養育が関係している」との仮説を提唱してきました[p.4]。今年度の研究は、この仮説の究明にあります。ネオニコチノイドが母性行動に関連するホルモン分泌機構にどのような影響を及ぼすのか明らかにし、母性行動とそのホルモン分泌機構の変化が継世代的に引き継がれるのかを、母親(F0)世代から子(F1)、孫(F2)、ひ孫(F3)世代にわたって検証するものです[p.5]。方法としてはマウスを用い、妊娠1日目から離乳時までp.6に示した方法で毎日投与しました。母性行動の指標として、妊娠中に巣作り行動試験を、分娩後に産子のリトリービング試験を行い、分娩後4週目の離乳時に採材(血液、脳、副腎)を行いました[p.6~7]。

試験の手順と結果

まず、巣作り試験の手順を説明します。試験前日夜に、巣の材料(コットン3グラム)をケージに入れ、翌日朝にケージを撮影して「巣の質」、コットンの「利用具合」や「裂き具合」を合計9点満点で採点評価します[p.8~10]。

産子のリトリービング試験では、母マウスが子マウスをくわえて巣に戻す様子を6分間動画撮影し、巣に連れ戻すまでの秒数を測定しました[p.11]。

結果を報告します。F0母獣は問題なくクロチアニジンを摂取しています[p.12]。まず、食殺・育子放棄の発生率を見ると、F0母獣では、両群(摂取群=CLO-65、対照群=CLO-0)ともに、食殺が1例ずつ、F1母獣では対照群において食殺が1例、F2・F3母獣では投与群において食殺が1例ずつ認められました[p.13]。産子数と性比、母獣と産子の体重についてはp.14~17のとおりです。

次に巣作り行動試験では、妊娠10.5日におけるF0母獣において、投与群で有意にハイスコアとなり[p.18]、写真でも投与群の母獣が丁寧な巣作りをしている様子が見て取れます[p.19の右写真が投与群]。妊娠17.5日では、スコアに有意な差はみられなかったものの、投与群では丁寧な巣作りをしている印象があります[p.20の右写真が投与群]。一方、F1母獣では、妊娠10.5日および17.5日ともに、明らかに投与群でロースコアでした[p.21]。妊娠10.5日の全個体の写真では、投与群の母獣はほとんど巣作りをしていない様子がわかります[p.22]。妊娠17.5日でも、先の妊娠10.5日と同様にほとんど巣作りが行われていません[p.23]。

次いで、リトリービング試験の結果です。F0母獣の投与群において、リトリービング潜伏秒数(産子をリトリービングするまでの秒数)が有意に長いことが分かりました。つまり、この農薬を摂取した母親は、なかなかリトリービングしないということです[p.24]。6分間で母獣がリトリービングした産子の合計匹数に有意な差はありませんでしたが、6分間で4匹すべての産子をリトリービングしたF0母獣は、対照群が50%だったのに対し、投与群ではわずか17%でした[p.25]。また、F0母獣では、2匹目以降の産子をリトリービングするまでの秒数が有意に長いことも明らかになりました[p.26]。一方、F1母獣ではそれらの項目に有意な差は見られませんでした[p.28~30]。

副腎重量および血中オキシトシン濃度については、F0母獣では投与群が対照群よりも低値で[p.31]、F1母獣では有意な差は見られませんでした[p.32、グラフは副腎重量のみだがオキシトシン濃度も同様]。

結果の考察

全体のまとめです。巣作り行動試験および産子のリトリービング試験では、F0母獣とF1母獣でかなり異なる結果になりました。F1母獣に比べF0母獣において巣作り行動が良好だったことは、予想と大きく異なりました[p.33]。その理由として、クロチアニジンを直接摂取したF0母獣では、これまで報告してきたように大きな不安様状態が惹起され、そのことが周到な巣作り行動を起こさせたものと推察しています[p.34]。F1母獣における巣作り行動の著しい低下については、「授乳期に有機リン系殺虫剤の一種であるクロルピリホスに曝露すると、母親になった際、巣作り行動の意欲が低下する」ことが報告されています[p.35]。有機リン系農薬では、神経伝達物質であるアセチルコリンが過剰に蓄積し、それらがニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に結合してネオニコチノイドと同じ作用を示すことになります。それゆえ、今回の実験において、F1母獣は胎子・授乳期にクロチアニジンを摂取したことになり、母親になった時に巣作り行動が著しく阻害されたことが想定されます[p.36]。次にリトリービング試験についての考察ですが、母獣は産子の超音波発声(USV)を手がかりにリトリービングすることや、生後1~4日の子ラットにクロルピリホスを曝露させると、子ラットの発する超音波発生が阻害されると報告されています。すなわち、F0母獣で産子のリトリービングが大きく損なわれたのは、クロチアニジン曝露によって産子の超音波発声が阻害されたことで、母獣はリトリービングの手がかりを失い、リトリービングの開始が遅延した可能性、つまり産子側の要因も大きかったことが考えられます[p.37]。一方、F1母獣では母子ともに妊娠・授乳中にクロチアニジンに曝露されていないため、分娩時において正常に母性行動が発現し維持されたと考えられます[p.38]。また、オキシトシンの低値がF0母獣で認められたことは、オキシトシンが養育行動の発現と維持に重要であることを裏づけるものと考察できます[p.39]。最後に、食殺・育子放棄の発生率への考察ですが、F1母獣の対照群で食殺を行なったマウスの母獣(F0)は、「巣作り行動試験スコア=0点、産子のリトリービング試験スコア=0点」でした[p.40]。母親からの養育行動の一つである毛繕い行動を受けた頻度によって将来の母性行動の発現が大きく変わることからも、不十分な母性行動が引き継がれ、食殺した可能性があります。また、既報での実験では離乳を生後3週間目としていましたが、今回の実験では生後4週まで延長していることが全体の食殺・育子放棄の軽減に繋がったと解釈しています。

結論です[p.41]。F0母獣への妊娠・授乳中のクロチアニジン曝露による母性行動への継世代影響は、オキシトシン分泌の減少が育児行動(リトリービング)の低下につながり、その際に養育を受けた産子が次世代の母獣(F1)となった際の母性行動の低下へとつながることが明らかとなりました。しかしながら、F2・F3世代ではその影響は波及するものの、世代を経ると減弱していくと想定されました。理由として、母性行動はエピゲノム変化よりもより直接的なホルモン作用の方が大きいことが挙げられます。

≪質疑応答≫

安田委員:「生後1~4日の子ラットにクロルピリホスを曝露させると、子ラットの発する超音波発生が阻害される」とのことですが、ヒトの場合だと、どのようなことが起こり得ると想像できるでしょうか。

星:ラットやマウスは日常的にヒトには聞こえない超音波を使って会話しているので、それを母親に向けて発しなくなっていることになります。ヒトに当てはめて考えることは難しいですが、赤ちゃんには母親から胎盤や母乳を通して移入しますので、赤ちゃんが感受性の高い時期に間接的に摂取すると、本来の自律神経系の働きそのものが阻害され、行動に影響が出ることは考えられるのではないかと思っています。

山田委員:なぜ母性行動の異常が次世代に伝わるのでしょうか。遺伝子のコピーミスのようなものですか。

星:今回の実験では、結論として母性行動はオキシトシンのホルモン影響のほうがゲノム変化よりも大きいという結果になりました。一般的に、直接的・間接的な曝露のないひ孫世代(F3)に農薬の影響が出た時に「エピゲノム毒性(ゲノムのスイッチがおかしくなる変化)がある」と言っています。卵や精子の状態において受け継がれているのだと思っています。ラマルクが「獲得形質は遺伝しない(生活環境の影響を受けた変化は受け継がれない)」と当時延べていたのですが、現在では、リセットされない遺伝子は間違いなくあるという認識になっています。さらに2020年代になって、父親の加齢やニコチン摂取の影響が精子を経由して次世代に受け継がれることがわかってきました。従来の考えでは、ゲノムの傷が影響して次世代が病気になると言われていたのですが、エピゲノム毒性というのは傷(遺伝子の配列の変化)ではなく、環境化学物質が引き起こすスイッチの変化が次世代に現れるものだとここ10年でわかってきました。


◆給食ネットワーク岐阜(発表者:服部晃)
「岐阜県の給食オーガニック化を進める上映会」

3年間の上映会で変わったこと

当初は7会場での上映を予定していましたが、主催者の体調不良などで3会場のみという不本意な結果となりました。2021年から『食の安全を守る人々』の上映会をやっていますが、その反響が大きかったので、2022年度は合計12会場で実施しました。この3年間で地元や行政、県当局への働きかけを続けてきたので、岐阜県内では各地で次のステージに入っているように感じています。

2023年度は、『いただきます』『夢見る小学校』『夢見る校長先生』など、教育を扱ったオオタヴィン監督の作品が多く公開されています。2021年から2022年度の上映に協力してくれた人たちの間では、「ネオニコの暗いイメージは大体定着したので、オーガニック給食という明るい話題に向かいたい」という意向があり、上映のエネルギーが削がれた感じがあります。

岐阜県で進むオーガニック推進

しかしオーガニック給食推進という面で見れば、2022年に映画を上映した恵那市のグループがやっているオーガニックマルシェが発展し、市の後援も得て、11月には岐阜県主催のオーガニックマルシェとして実施することになっています。JA岐阜もオーガニックに向けて動いており、JA岐阜主催、岐阜市共催の有機農業講演会が6月にありますが、これも長良公園でオーガニックマルシェを開いていた上映会グループの働きかけによるものです。2022年度に上映会をやった飛騨市では、2023年度は主催者の体調不良でできなかったのですが、2024年7月に飛騨市・高山市で『夢見る小学校』『夢見る給食』の上映会や講演会などを開催します。郡上市は2022年度最初に上映会をしましたが、そのグループが中心となって、郡上市の給食に有機農産物を提供したり、有機農場を視察したりといった活動が始まっています。

本年2月には2日間にわたり、合計10時間以上の時間を使って星信彦先生の講演会を行ないました。世界のトップランナーの研究成果をリアルタイムで報告していただける機会だったので、「びっくりした」「感動した」という感想がありました。名古屋経済大学の早川麻理子准教授と共同で企画しましたが、本年度もまた星先生に来ていただきたいと話しています。

また、恵那農業高校で140人ほどを対象に上映会ができたことも特筆すべきです。恵那市のオーガニックマルシェの実行委員会で恵那高校の先生と出会ったことがきっかけです。JAS認証を取ってキュウリ栽培をやっているという先進的な高校です。今年以降も、県内の農業高校・農業大学校や高校の農業科での上映も進めていきたいと県と話を進めています。

2023年度は不本意な形で終わりましたが、これからは星先生を招く講演会など、まった違った形で進めていきたいと思います。

≪質疑応答≫

星川:今年度は助成を受けずに勉強会などを実施するそうですが、財源はどうしますか。この3年間で自治体やJAも変化してきたとのことですが、条件はよくなっているのでしょうか。

服部:名古屋経済大学が事務局も請け負って援助してくれるという話があります。交通費などは自腹ですが。後は参加費でペイできる企画にしていきたいです。自治体からは金銭的な援助はありませんが、自治体やJAが動いてくれる可能性は出てきています。県や国がOKと言っているものを市町村でノーとは言えないという話も聞きましたので、県とも折衝して成果を上げていきたいと思います。


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◆猪瀬 聖
脱ネオニコで地域活性化

ジャーナリストにできる方法で

企画の目的は、できるだけ多くの方にネオニコに関心を持ってもらうことです。日本全体で見れば、その存在を知らない人の方が圧倒的に多いと常々思っておりました[p.2]。ネオニコチノイドは環境にも身体にも有害性があって、なくした方がいいんだよということを、生活に身近な問題として感じてほしい。私はジャーナリストですので、現場で取材をして記事にすることが手段になります。これまでもやってきたことと同じです。助成金は現地までの交通費・宿泊費に使いました。

取材して記事にするのが活動のすべてですが、何を記事に書いたか紹介します。中身を詳しく紹介する時間はないので、ごく簡単な紹介です。すべてYahoo!ニュースに掲載されているので、ぜひそちらを読んでみてください。

さまざまな切り口から見たネオニコ問題の現場

復活したコウノトリのペアはなぜここを子育ての地に選んだのか」は栃木県の小山市です[p.3]。東日本ではひじょうに珍しく、渡良瀬遊水地にコウノトリが定住して営巣し、子育てしています。小山市の浅野正富市長を取材しましたが、市長さん自身が環境問題に詳しく、市民活動家として関わっていたという経歴の方です。営巣の様子を見たり、市長さんの話を伺ったりして記事にしました。

絶滅した国の天然記念物はなぜ劇的復活を遂げることができたのか」は兵庫県豊岡市ですが、豊岡市はコウノトリを復活させる試みに大成功しており、ネオニコの問題とからめてどのようなことをしているのか取材しました[p.4]。実際にコウノトリが飛んでいるところを見ることができたのは、ひじょうによかったです。農協で長く環境問題に取り組んでいる方や、市長さんに取材しました。

国の特別天然記念物トキを蘇らせたのは持続可能な農業だった」は佐渡島のトキの話です[p.5]。トキの繁殖活動に成功して多くが飛び回っていますが、トキは臆病で用心深い鳥なので、近くで見ることはできませんでした。余談ですが、ホテルで食べた佐渡米もおいしかった。この写真は佐渡市の施設「トキの森公園」で実際に観察させていただいた際のものです。

洗っても落ちない農薬がEUで禁止に 日本はどうする?」のこの写真は、記事には使いませんでしたが、神戸大学の星先生のラボです[p.6]。ヒトにとってもネオニコは害があるということを星先生に伺ってきました。木村-黒田純子先生にも話を聞いています。難しい話を読んでもらう仕掛けとして、現在国が実施している農薬の再評価制度の問題点を解説してもらっています。農薬は洗えば落ちるからよい、と考えている人が多いのですが、そうではないのだよということで、このようなキャッチーな見出しにしています。

10年で組合員数も売上高も倍増 関西の小規模生協なぜ人気」は、連載の途中で気づいたこととして、ネオニコを使わないコメ作りをしても、やはりそれを流通させる仕組みが重要であり、消費者が「実際に購買できる」ことを伝える必要があると思いました[p.7]。そういった取り組みを進めているコープ自然派の方に取材しました。

小学生の尿から殺虫剤成分を検出 民間団体が50人に調査 対策の必要性訴え」は、最後の記事になりますが、デトックス・プロジェクト・ジャパンが取りまとめた、小学生50人の尿検査からネオニコチノイドが検出されたという結果を伝えました[p.8]。ひじょうにインパクトがあり、アクセス数もいちばん多い記事です。子どもの尿から農薬が検出されるとは、いったいどういうことなんだろうという関心があったのだと思います。

成果としては、どの記事もよく読まれています。ネットの記事は見出しで人を引きつけると読んでもらえるということがあるので、見出しのつけ方に左右されるということはありました。まだ取材しきれないこともあり、今後考えていきたいです。また、記事を他の記事と差別化して面白く書くかというのは、自身の課題だと思っています。この取材をベースにして、これからも続けていきたいと思っています[p.9]。


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◆苅部 治紀
ため池や自然止水域におけるネオニコチノイド系農薬の汚染状況と絶滅危惧水生昆虫の生息状況の相関調査 V

調査5年目の集大成

野外の昆虫類への影響とネオニコチノイド系農薬汚染との相関を調査して、2023年度で5年目になります。ネオニコ汚染が広範にわたっており、水生昆虫に深刻な影響を及ぼしていることがこれまでにわかってきました。育苗箱に使われる粒剤により、田植えと同時に高濃度汚染が起きて、コガムシが田んぼで死んでいる写真[p.2]ですが、これは7~8年前までの話で、いまではすでに地域の個体群に影響が及んで、死んだ昆虫すら見つけられなくなっているという状況です。全国、北海道ならばダイズやトウモロコシ、沖縄ならばサトウキビにもネオニコは使われているので、それを経由して水域が汚染されています。水田に限らず、ひじょうにさまざまな水域が汚染されていることが今回の調査でわかりました。

マダラナニワトンボは日本の固有種ですが、高濃度の汚染があった岐阜県の東濃地方では過去の記録地のほとんどから絶滅しています。かつて30カ所ぐらいあった産地がいまでは3か所になっています。他の種類でも相関が見られました[p.3]。このようなことがわかってきたので、周辺に農地がないだけではなく、集水域周辺も汚染されていないような土地であれば、たくさんの水生昆虫を呼べる生息地を造成できることもわかりました。

絶滅してしまった産地と隣接する現存産地の比較も行ないました。水田に囲まれた湿地では高濃度の検出があり、生き物はほとんどいませんでした。そこから直線距離でいえば100~150メートルほど離れた山林に囲まれた自然湿地では、飛散した農薬の検出は多少あったものの、現存産地となっています[p.4]。この5年間の調査で、ネオニコの検出は顕著に減少している傾向があります。実際のデータをp.5に示しました。最上段が水田に囲まれた湿地で、超高濃度の汚染はこの時点でなくなっていましたが、フィプロニルとその分解物など、多剤が検出されています。現存産地はほぼ非検出であることがわかるかと思います。

機器アクシデントでの中断

昨年度は一番の危機がありまして、この4年間共同研究をしてきた研究室の機器が故障してしまい、解析が完全に中断しました。結局、半年以上の中断があったため、昨年度の解析はほとんど進捗しませんでした[p.6]。解析中断中に、これも気になっていた、野外での汚染濃度を再現した環境での水生昆虫への曝露試験を行ないました[p.7]。3月だったので、その時期に活動している沖縄の水生昆虫を用いて、高濃度汚染の絶滅地での濃度を再現しました。コントロール群は水道水です。結果、投入後に行動異常は見られたのですが、その後回復し、実際に死んだのはコガタノゲンゴロウ1頭だけでした。この結果を見ると、野外の水生昆虫が激減した池のサンプルを採った時期の濃度がたまたまそうであっただけで、実際にはもっと高濃度の時期があったのではないかと推測しています。農薬散布後に降雨があり、畑から水が流れ込むような時にはもっと高濃度になり、そのようなことが1度でもあれば昆虫は死んでしまいます。これからは高濃度時にサンプル採取して分析を行なうことが必要であると思っています。実際に異常が起きた時の動画です[p.8]。その後に死亡した個体ですが、泳ぐはずのゲンゴロウがほとんど動かなくなっていることがわかります。他は死ななかったので、今後検証していく必要があると思います。

これまでの解析結果をまとめて論文化しました。とくに北海道や沖縄は、これまで野外のネオニコ汚染が知られていなかったのですが、そのような地域で、汚染と絶滅危惧種水生昆虫の減少との相関を確認しました。これまでベッコウトンボやマダラナニワトンボの生息地では環境基準値を超える汚染がありましたが、今回の解析ではそのような場所はありませんでした。その代わり、多剤汚染が観察されたので、それぞれが基準値内でも多剤による汚染が減少の主要因になっている可能性も考えなければいけないと思っています。周辺の環境が良好でも、地下水が汚染されていると環境リスクとなっていることが考えられます[p.9]。

検出は減っているが……農薬フリーではない

この5年で大きく変わってきたのは、フィプロニルやイミダクロプリドが検出されない産地が多くなってきていることです。2019年から追跡しているマダラナニワトンボの産地では、最初は90%の検体から検出されていましたが、2021年は32%、2022年は6.2%と検出事例が低下しています。フィプロニルやネオニコチノイドの使用を控える状況になってきていることが推測されます。各地で急速に進んでいるのではないかと思います[p.10]。ネオニコの使用が減ったのなら、それはそれでよいのですが、農薬を使わなくなっているわけではなくて、新農薬に切り替わっているのであれば、それも「第2のネオニコ問題」にならないか危惧されます。ネオニコが検出されなくても、それは農薬フリーではないこと、さまざまな環境影響があることに留意してほしいと考えています。農家さんの立場では、農薬を使わないことは難しいのかもしれませんが、極力、環境リスクが低いものを選択していくことが重要で、それには消費者の行動変容も必要でしょう。ネオニコも、当初は環境にやさしいといわれていたことに注意すべきです[p.11]。

一連の研究によって、汚染と絶滅の相関があることはわかってきましたが、汚染を逃れることが重要であるとわかりました。農地に近い産地を改善して、汚染や外来種の影響を排除して管理するよりも、最初から「農薬汚染のリスクがほとんどない場所に池を作ってしまう」ほうが、費用対効果的に見ても成果が上がることが徐々に示されています。ネオニコなどの汚染がない安全な場所を事前にスクリーニングすることが、大変ではありますが、実践的な保全方法になってきます[p.12]。

現在、解析再開のために動いています。長崎県の対馬など、壊滅的状況の産地の調査などを進めていきます[p.13]。

≪質疑応答≫

星川:ネオニコの使用が減っているというのは良いニュースですが、スルホキサフロルなどネオニコと作用機序が似た物質は調べたのでしょうか。また、環境中濃度を再現した影響試験をされていますが、ネオニコは低濃度でも長期間晒されていると、致死でなくても行動に影響が出ると言われています。そのような試験はしたのでしょうか。

苅部:7薬剤(アセタミプリド、イミダクロプリド、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリド、チアメトキサム、フィプロニル)以外は調査していません。虫が増えているわけではないので、他の薬剤にシフトしている可能性があります。ネオニコが検出されないから安全とはいえない状況にあるので、新しい農薬へのシフトも追っていかないと、誤った結論に至ってしまう可能性があります。調査対象の農薬を増やすべきとは考えていますが、どこまで追っていけばいいのかという疑問もあります。

薬剤曝露試験で今回調べたのはおもにゲンゴロウの成虫ですが、一般的に昆虫は幼虫のほうが化学的毒性に弱いので、幼虫ならば同じ濃度でも影響があったかもしれません。また、ゲンゴロウは肉食なので、単体では死ななくても餌となる生物に影響があれば間接的な影響で死ぬ可能性があります。今回は致死影響を見たかったのですが、低濃度での影響はヤゴなどで結果が示されていると思います。さまざまな昆虫で何が起こっているのか把握するため、しっかりした飼育設備を使って調査すべき課題だと思っています。絶滅危惧種の昆虫に対して致死試験はしづらいのですが、ノシメトンボとアキアカネなど、種類によって耐性の違いがあるようなので、そのあたりの研究をしていかなければいけないと思います。非標的種に対する毒性試験は、ミジンコだけだったものにようやくユスリカが追加されただけですが、大きな環境影響につながるのは多種の昆虫への影響なので、せめて水生昆虫だけでも、広く試験して環境基準値に反映してほしいと考えています。

会場:論文はどこで入手できますか。

苅部:日本トンボ学会の学会誌になりますが、神奈川県立生命の星・地球博物館に私の連絡先を公開していますので、請求の連絡をいただければPDFでお送りします。

山田委員:ゲンゴロウの致死影響のように死ななかったというデータだけだと、「ネオニコはそんなに危険ではない」という印象を与えかねないので、ご説明いただいたような背景も記載していただくとよいかと思います。

苅部:これまでも過小評価されないようなコメントをつけるよう心がけています。フィプロニルは検出が減ったものの、その二次、三次までの分解生成物は長期残存していることがわかりました。環境基準値が存在しない生成物のほうが毒性が高いという研究もあるので、そのあたりは触れていきたいと思っています。