山田敏郎金沢大学名誉教授が長期間にわたり続けてきたミツバチにおけるネオニコチノイド系農薬の曝露実験は、2021年のTBS『報道特集』でもハチの失踪とネオニコチノイド系農薬の因果関係を示唆する研究として報じられました。一連の実験に用いた方法の妥当性に関する具体的な解説が、2編の論文としてプレプリントアーカイブで公開されています。
▼「Evaluation of the appropriateness of pesticide administration concentrations in long-term field experiments and modest proposal」(2023.8.27)
https://doi.org/10.1101/2023.08.25.554728
▼「Neonics and mites can interfere with extending the bee-colony longevity during wintering」(2023.10.31)
https://doi.org/10.1101/2023.10.26.564284
8月公開の論文「長期野外実験における農薬投与濃度の妥当性評価と控えめな提案」は野外実験でハチに投与する農薬の濃度の妥当性を検証したものです。著者らが5回行なった野外実験でコロニーに投与した農薬濃度が高すぎたのではないかという批判に対する反証として、実験でミツバチ1匹が1日に摂取した農薬量を算出し、一定の時間内に摂取した平均農薬摂取量が、同時間でのLD50(半数致死量)よりも少なかったことを明らかにしました。野外で自由に採餌できる環境における農薬摂取濃度の条件設定として批判には当たらず、妥当だったと評価しています。
10月公開の論文「ネオニコやダニは冬季中のミツバチの寿命の増加を妨げる可能性がある」は、コロニー寿命を推定する数理モデルを用いてネオニコ曝露の影響を調べるものです。コロニーを形成するミツバチの生存条件を見るときには、個体ではなくコロニーを単位として、群の寿命(活動期間)を観察する必要があります。ネオニコチノイド入りの花粉を与えたコロニーでは、越冬に向けたコロニー寿命の変化が見られず、通常のコロニーと比較して異常な様相を示すことがわかりました。花粉を餌にする幼虫期のネオニコチノイド曝露が、成虫になってからの季節感知能力にダメージを与え、コロニーの越冬失敗につながっていることが示唆されます。
いずれも英語論文になりますが、山田教授による日本語訳PDFを以下で読むことができます。