2021年度のネオニコチノイド系農薬に関する公募助成企画「ネオニコチノイド系農薬の使用が魚類の生理機能に及ぼす影響把握」の研究成果論文が学術誌『Physiological Reports』に掲載されました。この研究は、キンギョを用いたネオニコチノイド系化学物質(チアメトキサム、ジノテフラン)とフィプロニルの曝露試験で、魚類への影響を水田とラボでの試験で調査したものです。以下、本研究を行なった石巻専修大学の角田出氏による日本語概説を掲載します。
▼Izuru Kakuta, Kiyomi Takase 「Exposure to neonicotinoid pesticides induces physiological disorders and affects color performance and foraging behavior in goldfish」『Physiological Reports』 12, e16138.
https://doi.org/10.14814/phy2.16138
(以下、角田出氏による日本語概説)
「ネオニコチノイド系農薬への曝露はキンギョに生理的障害を誘発し、色選択性や索餌行動に影響を与える」
我々は、ネオニコチノイド系農薬(NEO)がキンギョの、形態や生理学的変化に加え、自発的な遊泳行動や索餌行動に及ぼす影響を調査した。チアメトキサム(THM)を含む農薬を散布した水田で飼育された魚の大半は、鱗が剥がれやすくなり、腹水量も増加した。また、一部の個体では、生体防御活性や血漿中Ca2+濃度の低下がみられた。同様の変化は、ネオニコチノイド系農薬の原体(有効成分量)として、THM(1.0および20.0 μg/L)やジノテフラン(1.2および23.5 μg/L)にキンギョを曝露した際にも認められた。次に、低濃度のTHM(1.0 μg/L)への曝露が魚の自発的な遊泳行動や索餌行動に及ぼす影響を調べた。THMに1週間曝露した魚は落ち着きがなくなり、特に自然光、白色 LED 照明、青色 LED 照明の下で遊泳活性が高まった(落ち着きなく泳ぎ回るようになる)。また、THM に曝露されたキンギョは、緑色 LED 照明下で光沢のある白いビーズを他の色のビーズよりも多く摂取した(摂取するビーズの色の嗜好性が変化した)。これらの結果は、短期間かつ低いレベルのNEOへの曝露であっても、魚の生体防御活性や代謝機構に異常を引き起こしたり、そのストレス応答反応、自発的な遊泳や索餌行動に著しい障害を引き起こしたりすることを示唆している。
- ネオニコチノイド系農薬を散布した水田で飼育された魚(キンギョ)は、鱗が剥がれやすくなったり、腹水の量が顕著に増加したりする。また、一部の個体では、生体防御活性の低下や血漿中のカルシウムイオン濃度の低下がみられたりする。
- ネオニコチノイド系農薬の原体(有効成分・標準試薬)を用いた試験では、チアメトキサム(1.0および20.0 μg/L)やジノテフラン(1.2および23.5 μg/L)を溶解した水でキンギョを飼育すると、チアメトキサムを散布した水田中で飼育した魚にみられたものと同様の変化が認められた。
- 次に、低濃度のチアメトキサム(1.0 μg/L)への曝露が魚の自発的な遊泳行動や索餌行動(餌を探して食べる行動)に及ぼす影響を調べた。 低濃度のチアメトキサムに1週間曝露したのみでも、魚は落ち着きがなくなる(泳ぎ回るようになる)ことに加え、特に自然光、白色 LED 照明、青色 LED 照明の下での遊泳活性が高まった(他の色の光照射下よりも落ち着きなく泳ぎ回るようになった)。また、低濃度のチアメトキサムに曝露されたキンギョは、緑色 LED 照明下で光沢のある白いビーズを他の色のビーズよりも多く摂取した(摂取するビーズの色の嗜好性が変化した)。
- これらの結果は、ネオニコチノイド系農薬への曝露が、短期間かつ低いレベルのものであっても、魚の生体防御活性や代謝機構に異常を引き起こしたり、そのストレス応答反応、自発的な遊泳や索餌行動に著しい障害を引き起こしたりすることを示唆している。