日本有機農業研究会発行の『土と健康』(No.501, 10・11月合併号)に、2014年度と2018年度の助成先であるネオニコチノイド研究会代表の平久美子医師による標題の解説が掲載されています。
平医師は、群馬県の青山美子医師との共同研究で、ネオニコチノイド殺虫剤の1つアセタミプリドの環境曝露(※1)による中毒症状の症例報告を2009年に論文発表し、以後、それらの因果関係を示すために尿中のネオニコチノイドおよびその代謝物を高感度で分析する技術を模索。茶飲料や果物の摂取後になんらかの症状を訴えた人の症状群とネオニコ曝露には、統計学的に有意な相関があることをつきとめて、2016年に論文発表しました。
今回の解説では、そうした日本人の環境曝露実態とともに、水溶性が高く、細胞膜を通過しやすいこと、ニコチン受容体への滞留しやすさといったネオニコの特性や、これまでの研究で解明された様々な慢性毒性(※2)を取り上げ、その結果として認知症、発達障害、慢性腎臓病、脂肪肝、ウイルス感染症、不妊、乳がんなどが増加する可能性に言及しています。
そんな中、平医師が「興味深いデータ」として注目しているのが、NPO福島県有機農業ネットワークと北海大学の池中良徳准教授とによる共同研究です。これによると、それまで農薬を使った慣行栽培の農作物を食べていた人でも、有機農産物を日常的に摂取することでネオニコ曝露が大幅に減ることがわかっため、平医師はネオニコの毒性から子どもを守り、生態系影響も減らすことのできる手段として有機農業の普及に期待を寄せています。
(※1)散布した田畑や森林の周辺の空気中に漂うドリフト(たばこでいえば副流煙)を吸い込んだり、皮膚から吸収したり、汚染された飲料水を飲んだり、栽培時に使用したネオニコが残留した食品を食べたり、室内や床下、天井裏で使用したりすることにより、人体内に取り入れられることをいう。ネオニコは農林業だけでなく、ゴルフ場の芝、ペットの蚤取りやシロアリ防除にも用いられる。(本文より抜粋・転載)
(※2)ネオニコは、一日摂取許容量(ADI)とほぼ同じレベルの曝露で、様々な慢性毒性、たとえば動物実験で神経毒性、神経発達毒性、免疫毒性、生殖毒性、腎毒性など、細胞実験で神経発達毒性、神経毒性、免疫毒性、内分泌毒性、乳がんの増殖などをもたらすことが報告されている。(本文より抜粋・転載)
▼平久美子「ネオニコチノイド殺虫剤汚染と有機農業」
『土と健康』No.501, 10・11月合併号, pp. 4-15.
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