abtのエネルギーシフト部門助成先である羽山伸一さん(日本獣医生命科学大学教授)は、福島市のニホンザルが放射線被ばくによって受ける影響を研究しています。野生ニホンザルの受胎率について調査した学術論文が2024年4月に公表されました。論文の執筆者である羽山教授から解説を寄稿いただいたので、ご紹介します。
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「福島市の野生ニホンザルにおける放射線被ばくの次世代影響評価」に関する論文の公表
日本獣医生命科学大学獣医学部野生動物学教室
教授 羽山伸一
2020年度よりabtの助成をいただいている私たちのプロジェクト「福島市の野生ニホンザルにおける放射線被ばくの次世代影響評価」の研究成果として、下記の論文を公表しましたので、その概要をご報告いたします。
◆福島原発事故後における野生ニホンザルの受胎率低下
私たちの研究グループでは、2008年から福島市に生息する野生ニホンザルの受胎率などを継続的に調査しています。このプロジェクトでは、2011年に発生した福島原発災害で放射線被ばくした妊娠可能な満5歳以上のメス473頭を対象に、被ばく前後の受胎率の変化を調べました。その結果、被ばく前に受胎したと考えられる2009~2011年の出産年における受胎率は57%、同様に被ばく後では47%(2012~2015年)、52%(2016~2019年)、47%(2020~2022年)で、これらの4期における受胎率に有意な差は認められませんでした。一方で、8歳以上のメスに限ると被ばく前に比べ被ばく後で有意な受胎率の低下がみられました(左図)。個体ごとに推定した総累積被ばく量(累積内部被ばく量+累積外部被ばく量)の中央値は、8歳以上では5~7歳に比べて有意に高かったことから(右図)、被ばく後に8歳以上の受胎率が低下している原因の一つとして、総累積被ばく量が影響している可能性が考えられました。
論文の出典:Hayama S, Nakanishi S, Tanaka A. et al. Decline in the Conception Rate of Wild Japanese Monkeys after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident. Arch Environ Contam Toxicol (2024). https://doi.org/10.1007/s00244-024-01063-z