必要な取り組み
ほとんどのネオニコチノイド系農薬がすでに使用禁止となった欧州に対し、まだ規制のない日本では、ネオニコチノイド問題にどのように取り組んでいけばよいのでしょうか。
「予防的措置」と「未然防止」
環境問題に関する欧州と日本での規制の差を大きくしているのが「予防的処置」(欧州)と「未然防止」(日本)という、問題への取り組み方の根本的な違いです。
欧州では、環境や人体に多大な影響が出る恐れのある場合に、科学的に確実な根拠がそろわなくても被害の出る前に対策を行うという考え方が70年代から広がり始め、80年代半ばのオゾン層問題で広く認知されるようになりました。現在、欧州で環境問題に対する規制において頻繁に適応される「予防的処置」は、1992年に行われた国連環境開発会議のリオ宣言 ※1 の一環としてこうした考え方をまとめたものです。そこには「深刻かつ不可逆的な被害のおそれのある場合、科学的に完全な確実性がないからという理由で、環境悪化防止のための対策が延期されてはならない」と記されています。欧州委員会による今回の決定のように、ネオニコチノイド系農薬と生態系や人体への影響との関連を示唆するデータがありながら、因果関係の科学的な証明に至らない状況でも使用規制などの対策に踏み込めるようになっています。
一方、日本では環境基本法(第1章第4条)※2 に「科学的知見の充実の下に環境の保全上の支障が未然に防がれること」と記され、対策に踏み切るためには環境問題の科学的確証を求める「未然防止」という概念が根づいています。一見、細かいニュアンスの違いですが、科学的に明確な証拠を得るためには長年にわたる研究や検証を必要とするため、ネオニコチノイド系農薬規制のように問題への対策に踏み切るまでの時間に大きな差が生じてしまいます。
自治体から
消費者として
消費者の立場でもネオニコチノイド問題に取り組むことは可能です。環境と食の安全を守るため、ネオニコチノイドを使わない作物を流通する動きが各地で始まっています。いくつかの生協では、ネオニコチノイドを使用しない作物に「ネオニコフリー」マークを表示し、組合員が選択して購入できる情報を提供しています。生産者に対しても有機栽培の技術講習を行ない、消費者と生産者の間に立って双方のニーズを汲み取る仕組みを作りつつあります。安全な食品を選択するための情報開示を小売店などにも求めながら、消費者としてそのような商品を買い支えることも、ネオニコチノイド系農薬の問題解決に向かう大きな貢献と言えるでしょう。
主権者として
※1
リオ宣言:1992年に開催された国連環境開発会議で採択された宣言。日本語訳はこちらで読めます。
» https://www.env.go.jp/council/21kankyo-k/y210-02/ref_05_1.pdf
※2 環境基本法:
» https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=405AC0000000091
※3 みどりの食料システム戦略(令和3年5月12日決定):(5)本戦略が目指す姿とKPI(重要業績評価指標)に「化学農薬のみに依存しない総合的な病害虫管理体系の確立・普及等を図ることに加え、2040 年までに、多く使われているネオニコチノイド系農薬を含む従来の殺虫剤を使用しなくてもすむような新規農薬等の開発により、2050年までに、化学農薬使用量(リスク換算)の50%低減を目指す」とあります。
» https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/
※4 農薬の再評価制度:2018年に施行された改正農薬取締法によって、農薬は定期的に最新の知見によって安全性の再評価を行なうことになりました。ネオニコチノイド系農薬の見直しは優先度が高く設定されています。
» https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/saihyoka/
【参考文献】
1: 有機農業ニュースクリップ「ネオニコ規制強化などを求める意見書」
各地の地方議会に提出された意見書とその採否が一覧表になっています。
» http://organic-newsclip.info/nouyaku/local_opinion.pdf