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トップページ イベントレポート 【Future Dialogue】第6回〈これってホントに脱炭素?!〉身近にあふれるグリーンウォッシュを徹底検証 エネルギーシフトの専門家が答えます

日本政府は「2050年カーボンニュートラル」を宣言していますが、実際には「脱炭素社会実現」や「ゼロエミッション」といった言葉を並べただけの“グリーンウォッシュ”政策らしきものが散見されます。大手企業の「エコ」や「SDGs」を売りにした見せかけの誇大広告など、巷に広がるグリーンウォッシュを参加者の皆さんと検証・確認しながら、それらに騙されず、本当にサステナブルなエネルギーシフトの道を私たち自身で切り開くための目を養うにはどうしたらいいかを話し合いました。

https://youtu.be/b460rhcpmJw

(資料) 

 

【講演1】明日香壽川(東北大学教授、国際環境NGO FoE Japan理事)

「グリーンウォッシュに騙されないために今知るべきこと」

 

プロフィール)明日香壽川(あすか・じゅせん/東北大学教授、IGES気候変動グループ・ディレクター(2010-2012年)、国際環境NGO FoE Japan理事)
東北大学東北アジア研究センター・同大学院環境科学研究科教授。博士(学術)。主な著書・論文に、2021年に「レポート2030:グリーン・リカバリーと2050年カーボンニュートラルを実現する2030年までのロードマップ」(共著)、同じく2021年に『グリーン・ニューディール――世界を動かすガバニング・アジェンダ』(岩波新書)。他に、『脱「原発・温暖化」の経済学』(中央経済社、2018年、共著)、『地球温暖化:ほぼすべての質問に答えます!』(岩波ブックレット、2009年)など。

 

 

日本の削減目標は未達になる可能性が高い

まずは全体の前振りのようなお話として、そもそも日本の温室効果ガス排出削減数値目標がどういうもので、それが達成できそうなのかについて簡単に紹介します。なぜかというと、こんなに大変ななかでグリーンウォッシュなんて絶対に許してはいけない、認めてはいけない、やってもらっては困る――そういった状況をお伝えしたいからです。

最初のスライドは、「日本の温室効果ガス排出削減数値目標および達成の見通し」という、ちょっと硬くて長いタイトルで恐縮ですが、ご存知のように日本政府のいまの目標は、「2030年温室効果ガス排出46%削減(2013年度比)」です。この「46%」がどうかということですが、世界のいろいろな国の数値目標を比較しているドイツのシンクタンク(Climate Action Tracker)によると、先進国に有利な負担分担基準で考えた場合でも、日本は2030年に2013年比62%削減が必要で、先進国と途上国の一人あたりの排出量や歴史的な排出量などの「公平性」を考慮した場合には、実は「2℃目標」達成のためには約90%、「1.5℃目標」達成には約120%の削減が日本には必要だとしています※1。ですから、実はこの46%という数値目標は、1.5℃、2℃のいずれの目標達成に対しても整合性が全然ないことを、まず申し上げたいと思います[p.4]。

では、日本のいまの第6次エネルギー基本計画で、46%という数値目標に対して整合性のある電源構成がどうなっているのかというと、〈石炭19%、天然ガス(LNG)20%、石油2%、原子力20~22%、再生可能エネルギー(再エネ)36~38%〉となっています。これは2030年の計画です。目標といってもいいのかもしれません。しかし、実際問題として電力会社が「大体2030年くらいには、このくらいになりますよ」と出している数値を政府機関(電力広域的運営推進機関)がまとめたものによれば、2031年度の電源構成は〈石炭32%、天然ガス(LNG)30%、石油2%、再エネ29%、原子力6%、電源種不明1%〉です※2。つまり、実は46%の目標数値も未達になる可能性が非常に高いのです[p.5]。

これらの状況証拠から単純にいえば、いまの政府には46%すら達成するつもりがあるのかよくわからず、達成の見通しが全然見えていない非常に問題な状況です[p.6]。そういう状況のなかで「グリーンウォッシュ」が出てきているのです。グリーンウォッシュとは何かというと、表面上を取り繕う「ホワイトウォッシュ」と「グリーン」を掛け合わせた造語になります。「意図的あるいは意図的でないにかかわらず、環境によさそうに見せかけて消費者の誤解を招くこと」と定義できるかと思います[p.8]。いまの日本や世界は、グリーンウォッシュを許せるような状況ではありません。しかし実は、グリーンウォッシュは日本にも世界にもたくさんあります。

※1:2℃目標/1.5℃目標:それぞれ、温室効果ガスによる地球全体の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2℃未満、1.5℃未満に抑えるという目標。2015年のCOP21で締結されたパリ協定では、「世界共通の長期目標として2℃目標の設定。1.5℃に抑える努力を追求すること」が合意された。
※2:電力広域的運営推進機関「送電端電力量」『2022年度供給計画の取りまとめ』p.27-28

ニューヨーク市によるグリーンウォッシュ訴訟

アメリカでは、この許しがたいグリーンウォッシュが訴訟になっています。ニューヨーク市は、石油大手3社とアメリカ石油協会を訴えています。日本でも地方自治体、それこそ東京都が同様に訴えてほしいと思うのですが、この「ニューヨーク市が訴えた理由」についてスライドに簡単に書いています[p.9~11]。時間がないので簡単に申し上げますと、実際には化石燃料関連のビジネスをたくさん続けているのに、それについては言わないで、ビジネス全体から見れば小さな部分でしかない再エネや革新的技術(水素、バイオ燃料など)への投資、あるいは投資計画を過大に強調して、自分たちは「グリーン」または「クリーン」であるという虚偽のイメージを消費者に与えています。最近、日本政府は「原発もグリーンだ」と言うようになっていますが、「そういう印象を与える」ということです。興味のある方は検索していただけると、この裁判の訴状が出ていますので、いろいろと面白い内容になっていると思います。

もうひとつ、とくにニューヨーク市がグリーンウォッシュとして訴えた大きな理由のひとつが水素です。水素自体は燃やしてもCO2は出ないのですが、水素を作るときにCO2が出る場合があります。でも、そこは言及せず無視しています。また、再エネを批判するときに「バックアップ電源として化石燃料が必要だ」と主張しているのですが、実際にはバックアップはどの電源でも必要で、再エネだけがバックアップ電源を必要とするわけではありません。それから「世界が2050年ネットゼロを目指すのを支持」と言いながら、自分たちのビジネス計画は「2050年ネットゼロ」に全然整合していない、というような理由で訴えています。

身近にあるグリーンウォッシュ広告の事例

スライドに2021年7月22日に私の家の近くの国立競技場という地下鉄大江戸線の駅の中で私が撮った写真がありますが、これはENEOSという化石燃料会社の広告です。この広告が壁一面にありました。「東京2020 オフィシャル水素です。」と書いてありますが――「オフィシャル」というのもすごいですが――まさに、この水素をどうやって製造するのかが問題なのです。このENEOSのホームページを見ると、一部は福島での再生可能エネルギーから作った水素を使っているようなのですが、その「一部」というのがどのくらいの割合なのかは書いていません。

もうひとつ、2022年10月18日にロンドン・ヒースロー空港に行ったときにHSBCという銀行の広告があったので思わず撮った写真です。この広告を見て、HSBCに対するグリーンウォッシュの批判はないのかなと検索してみましたら、まさにありました。今年4月の『フィナンシャル・タイムズ』に、HSBCがイギリスの広告監視機関(日本でいうJARO/日本広告審査機構のようなところ)からグリーンウォッシュで批判されているという記事があります。この記事に載っていたHSBCの広告の写真は、HSBCが植林を頑張っているというイメージを見せているものです。しかし、このように批判されていても、まだ10月の空港では私が写真に撮ったような宣伝が出ています。批判されて変わったのかどうかわかりませんし、懲りないというのでしょうか、なかなか変えません。逆に、会社はこうしたグリーンウォッシュ的な宣伝は非常に効果があることをわかっているから、簡単にはやめられないのかもしれません。

2030年までに「ガクッと減らす」必要がある

次に日本の課題ですが、先ほど述べたように数値目標を全然守っていないという意味では、日本政府自体がグリーンウォッシュをしていると言えるでしょう。問題は、みんな(国民全体)が「2050年にカーボンニュートラルにすればいい」と思っているところです[p.16]。2050年には生きていないから、自分は関係ないと思っている人が非常に多いかなと思います。基本的な問題は、国民や企業の気候変動問題に対する無理解、無関心と言ってしまえばそれまでですが、とくにカーボンバジェット※3、数値目標、公平性、追加性に関する日本の一般の方の知識がないので、グリーンウォッシュされていても、きちんと突っ込めないというところはあるのかなと思います。

カーボンバジェットを例にすると、このスライドの図[p.17]にありますように、赤線のような感じでCO2排出量を減らせばいいと思っている人が多いんですよね。ですが、実際は青線のような感じで減らさなくてはいけないと気候ネットワークは言っています。IGES(地球環境戦略研究機関)も同様に、赤線ではなくて緑線のように減らさなくてはいけないとしているのですが[p.18]、実はちょっとこれには問題があります。上の線のようにまっすぐ同じスピードで減らしていては1.5℃目標は達成できません。本当は下線のようにもっと減らさないといけません。本当は確率が重要で、かつ1.5℃目標を達成するためにはガクッと減らさないと達成できません[p.19]。

図:2030年までの大幅削減を示す2つの試算(左:気候変動ネットワーク、右:IGES)

※3カーボンバジェット:気温上昇の目標上限値を定めると、温室効果ガスの累積排出量の上限値が算定できる。今後排出可能な量(炭素収支=バジェット)は、その値からこれまでの排出量をマイナスして推定する。

こちらの図[p.20]も似ていますが、Glen Petersというスウェーデンの研究者が、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のレポートが出たあとすぐにネットに出したものです。ガクッと下がる線のように2030年までにCO2排出量を減らさないといけないと言いましたが、そのくらいしないと1.5℃目標は達成できません。1.5℃目標達成には、「2050年カーボンニュートラル」では全然ダメで、「2050年までに直線的に減らす」のも全然ダメで、「2030年までにガクッと減らす」必要があるのですが、実は公平性を考えると日本はそれでもダメで、それこそ先ほどのドイツのシンクタンクが言っていたように、2030年に「マイナス120%」にしないといけない。そのくらい実は1.5℃目標達成は難しいです[p.21]。その状況でグリーンウォッシュなんて絶対に許してはいけないのですが、許してしまっているのが日本の現状かなと思います。

温暖化対策に特効薬はない

最後のスライドが「日本の課題」です[p.22]。これは日本人の課題とも言えるかと思うのですが、「曖昧さを好む情緒的でナイーブな国民性」です。「環境にやさしい」とか「地球にやさしい」、「もったいない」といった言葉になんとなく騙されてしまう国民性というのが、なかなか問題なのかなと思っています。

私がつくづく思うのは、温暖化対策に特効薬はないということです。いろいろな分野でそれぞれ具体的に制度をつくり、政府はアメとムチを政策として作らないといけないのですが、「特効薬っぽいもの」に依存する、飛びつく傾向があるのかなと思います。その特効薬が革新的技術であれば水素や原発、地熱だという人がいたり、脱成長すれば解決するという人がいたり、はっきりいうと単純に思ってしまっている人がいるので、日本ではグリーンウォッシュに対して細かく批判するような空気なり土壌がないのかなと思います。

元毎日新聞の方が調べてネットに記事を書いていましたが、欧米と違って日本ではJAROなどへのグリーンウォッシュに関する苦情がほぼゼロのようです。一方で、先ほどのHBSCの広告には四十数件の苦情があってイギリスの広告監視機関が問題視し、HSBCに対してなんらかの対応を求めているという記事でした。残念ながら、日本ではそういう声がほとんど上がっていないのが現状です。

今後おそらく問題となるのは、いわゆるカーボンオフセット※3です。今日は時間がなくて説明できませんが、「CO2を排出しても植林などでカーボンをオフセットするので問題ないです」というような商品が、これからもっと多く出てくると思います。しかし実は、それが本当にカーボンオフセットされているのかはわかりません。カーボンオフセットをするにはクレジットを買うのですが、安価だけど追加性がなく、悪影響もあるクレジットもあります。実際にはCO2が減っていない植林だとか、そこに住む人たちに悪影響を与えているような植林、そういうものがクレジットに使われる可能性が高いです。

※3:企業活動などで排出削減不可能な二酸化炭素量を算定し、再生可能エネルギー導入や植林、森林保護などによる排出削減活動に投資する(排出権=クレジットを購入する)ことで、排出量に見合う削減量を負担したと見なして相殺する仕組み。国内でのオフセット取引では国が運営するクレジット認証制度「J-クレジット」がある。

「こういう広告はダメ」という基準を

こうしたことも含めて、日本でグリーンウォッシュをどうしていくのか、今回のイベントをきっかけに、日本でもなんとかできるような体制が作れたらいいと思っています。たとえば「こういうものはグリーンウォッシュだからダメですよ」というグリーンウォッシュの定義、何らかの共通認識が作れるといいのではないでしょうか。今回、登壇しているNGOの方なり、気候訴訟ジャパンの方などが「こういうのがグリーンウォッシュである」と文章などにして発表していくことが必要だと思います。それを踏まえて、一定の基準に基づいてみんなが「こういうCMはグリーンウォッシュです」「これはアウトです」と言えて、信頼性をもってその情報をシェアできる環境になればいいと思っています。

≪質問≫※退席されるため、明日香さんの講演への質問を先に受け付けました
美濃部(abt理事):明日香先生の講演に対して、「(先ほどの)図のようにガクッと減らすだけでも、まだ足りないのでは」というチャットでのコメントをいただいています。「毎年一定率減らしていっても半減期曲線になるはずで、現実的には収穫逓減効果(投入する要素を増大していくと次第に効果が低減していくこと)があるはず。毎年一定率さえ難しいのではないか。それ以上に初期段階で減らす必要があるのではないか」という内容です。

明日香:おっしゃる通りです。後になればなるほど減らすのが難しくなりますし、コストも高くなります。毎年一定率で減らすのは、次の世代に責任もコストも押し付けるようなものです。それをしないためにはなるべく早く、そういう意味では2030年の前半にかなりガクッと減らす必要があると思いますし、それが我々の責任だと思います。そういう責任感のもとに、「グリーンウォッシュをやめましょう」という声を上げられるといいと思います。

美濃部:明日香さんから、もしお話し足りないことがあれば最後にお願いします。

明日香:先ほど、日本の課題なり日本人の課題であると述べたのですが、「日本は環境立国で温暖化対策を頑張っていて、ほかの国、特にアメリカとか中国のほうが問題だ」と考えている方が多いと思うんですね。しかし、そう思わされているのがまさに政府のグリーンウォッシュによるものです。

実際は、日本は温暖化対策が非常に遅れている国です。たとえば、石炭火力のフェーズアウトがどこまでできているかを表したランキングがあるのですが、EUとOECDを足した43カ国中で日本はビリ、43位です。最下位なんですね。そういう状況であることをもっと知らなくてはいけないですし、知ってほしいです。本当に「グリーンウォッシュなんてやったら困るよ」という社会の意識や関心を高めていく必要があります。

そのためには、研究者ももっと頑張らないといけないと思うのですが、これを聞いていらっしゃる皆さんも、ちょっと調べてみたり、周りの人に「日本はこれくらい大変なんだよ」と伝えていただけるとありがたいと思います。あとはテレビとかCMを見て「これって、ちょっと違うんじゃないの」と思ったら、すぐJAROに連絡する。まわりの人に「これはちょっと違うんじゃないですか」と伝える。そのようなプレッシャーをかけることが非常に重要です。それこそテレビ局に電話をかけてもいいのかもしれないですし、新聞社に「こういう広告を載せるのはおかしいんじゃない?」と言ってもいいと思います。

 

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